「越前、」 呼び止められて立ち止まる。 次桃先輩にまたこうやって呼ばれるのは、どのくらい先になるんだろう。 ねぇ、俺は今どんな顔してる。どんな顔で桃先輩を見ればいいの。 背中にぶつかる視線に誘われて振り向く。 みんなと一緒にいたい、桃先輩と離れたくない、全国も全米オープンも制覇したい、 そんな俺の気持ちは今でも変わらないけど・・ 「アメリカ、行ってこいよ」 そう言って桃先輩は笑った。 桃先輩の笑顔はいつも俺を照らしてくれる太陽なのに、 なんでだろう、今日の笑顔は悲しみの太陽で 自然と涙が出そうになってくる。 その言葉、笑顔も、俺の胸に突き刺さる。 旅立ちたい思いが、引き止めて欲しい想いが、複雑に混ざり合う。 混ざり合った思いが痛みになって繰りそそぐ。 今日はまるで、雨・・・ でも、 泣いて、泣いて、泣いて、寂しがるのも、躊躇するこの思いも今日で最後。 少しだけ顔を上げて、帽子を下げて表情を悟られないようにして、 決意を固める。 「桃先輩、俺勝って来るッス」 自分がどこまで行けるのか試したい、どこまでも遠くへ行ってみたい。 そう思えるのは俺の居場所がここにあるから。帰ってくる場所が在るから。 「おう、それでこそ越前!」 名残惜しく抱きしめることもせず、桃先輩は俺のとなりで笑った。 それは遠くも、近くもない距離。 ・・・必ず勝って帰ってきてやる。 「負けんなよ」 「当然」 もう弱音なんてはかない。 俺は俺の道、桃先輩は桃先輩の道を全速力で走りぬく。 そして、いつか勝って帰ってきたときには、そこには必ず桃先輩がいる。 証拠なんて要らない。確信があるから、勝つ自信があるから、もう一人だなんて思わない。 弱音なんてはかない。 いつか必ず帰ってくるから。 M-side |