桃先輩に夏祭りに行こうといわれた。
夏に浴衣を着て屋台を巡るという日本の文化に見惚れて興味はあったけど、
いざ浴衣を着て一緒に歩こうとなると、俺は条件反射のように「やだ」の一点張りだった。

「浴衣、浴衣♪」
「うるさい」

普段から・・色っぽいとか可愛いとか言われるのが嫌いなわけじゃないけど、
そうゆうことを言われると、不可抗力に俺はすぐに赤くなってしまうから・・・
だからあんまりそうゆうことを言わないで欲しい。

「・・冷やかしたりしない?」

ってちらりと見上げて聞くと、約束するって言ったから
お祭りはお互いに浴衣で来ることを約束した。

「破ったら1週間キス無し」
「わーってるって♪」








夏祭り当日、

その時は、笑顔で答えながらそんな約束守れっかよ、言ったもん勝ちだろ?くらいにしか思っていなくて、
今日までずっと越前の浴衣姿を心待ちにしていた。
早く出てこねぇかなぁと、思うとうずうずしてしょうがない。
そのとき、カチャと玄関の扉が開き、少し恥ずかしそうに越前が顔を出した。

「早くこっち来いって」

笑顔で手招くと、越前が扉を開いてこっちへ向かってくる。
俺は上目遣いで見上げてくる越前の浴衣姿に釘付けになってしまった。

「どうしたの?」

シンプルな男物ではあるけど、胸元から見える肌、細く綺麗な手足を、
涼しげな浴衣がよりいっそう引き立てる。
・・うわー・・・っ
俺のそんな様子を見て越前ははてなマークを浮かべて小首をかしげる。
・・やばい、なんか思ってた以上にクる。

越前の体なんていつも見てるくせに、見慣れない浴衣姿を見せられただけで、
告白する前の瞬間みたいに心臓が高鳴る。
そのおかげで、いつもみたいにうまい言葉が出てこないし、目も泳いでる。
しゃべる前に歩き出すわけにもいかず、立ち往生してると、越前が必死に笑いをこらえてるのがわかる。

「なんだよ、」
「だって・・なにガマンしてんの?」
「っせぇな!おまえが変な約束させるからだろ!」
「だって桃先輩わかりやすすぎ」

約束ってよりも、ただ単にあんまり綺麗な浴衣姿を見て言葉が出なかっただけなんだけどな。
越前に言われた途端に顔が少し熱くなった。
俺は照れ隠しに、早く行くぞ、といつものように頭をくしゃっと触って、
快い下駄の音を鳴らしながら歩き始めた。






「ちょっと疲れたか?」
「・・ちょっと」
「うし。じゃ俺なんか買ってくるからここで待ってろな」

人ごみが苦手な越前の手を引いて、俺は少し静かなベンチで待ってるように越前に言った。
こんな可愛い姿で一人待たせんのは気が引けたが、履きなれない下駄で足を痛めてる越前に、
一緒について来いというのもなんだから、俺は周りを見渡して空いていそうな屋台を見つけ走っていった。








ふぅ、と息をついてベンチに座って一休み。履きなれない下駄を脱いで足を解放する。
鼻緒がすれて指の間が痛い。人ごみは息苦しくて窮屈だし、
桃先輩は行っちゃうし・・・
ぽつんと一人取り残されながら、俺は七色に変わる大きな花火を見ていた。

浴衣姿、桃先輩にどう思われるだろうとか、似合ってなかったらどうしようとか、
自分のことばかりで精一杯だったけど、桃先輩と会って目が合った瞬間、
そういや桃先輩も浴衣だったんだな、って思い出した。
さっきは桃先輩が動揺してるのがおかしくて笑っちゃったけど、
たぶんまじまじと見てたら、動揺してたのはきっと俺の方だった。

「おまたせ〜越前」
「おかえり」

帰ってきた桃先輩の手にはからあげと焼きそば。

「ふぅ、空いてる店すぐ見つかって助かったぜ〜、ほらこれ、おまえの分な」
「ありがと」

受け取ったからあげと焼きそばの熱さと格闘しながら、口へと運ぶ。
桃先輩は熱さなんか全く関係ないのか、すごい食べっぷり。

「ん、おいしい」
「うまいな。火傷すんなよ、おまえ猫舌なんだから」
「わかってるよ」
「ま、仮に火傷したら俺が舐めて治してやるから♪」
「・・ばーか」

ふぅふぅと冷ましながら、ごまかすように視線を落としてからあげを頬張る。
そして顔を上げようとした途端、桃先輩の顔が近づいてきた。
驚いて思わず目をつぶったら、がぶりとからあげを食べられた。

「ごっそさん♪」
「ちょっと!自分の食べてよ!」
「ケチケチすんなよ、いいじゃん、おまえの食べたくなっちまったんだからよ」
「・・食いしん坊」

・・・・・・キス、されると思った・・。
なんだか一人でドキドキしてるのが悔しくて、仕返しに桃先輩のも大口で食べてやった。































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