「あぁっ!越前、それは食いすぎだろ!」 「まだまだだね」 ふん、紛らわしいことする桃先輩が悪い。 ざまーみろ笑ってやると、ぐいっと肩を抱かれた。 「ん、なに」 抱き寄せられたことで近くなった桃先輩の肩に頭を乗せると、 子どもをあやすようにぽんぽんと頭をなでられた。 「なんか、やっぱ綺麗だな」 「うん、こんなすごい花火見たの初めて」 打ち上げ花火の快い音と、夜空に咲く虹色の花を見ながらそうつぶやくと、 撫でていた大きな手が、こつんと頭を小突いた。 「ばーか、おまえのこと言ってんの」 え・・・俺・・? 少し驚いて桃先輩の方を向くと、ちょっと照れくさそうに笑った。 「浴衣着て色気が増したっつーか、、すごい可愛いぞ」 どくん。 いきなり心臓が鳴り出した。 「桃先輩っ、、」 「なんだよ、別に冷やかしちゃいねぇだろ。本当にそう思ったから言ってんだ」 ・・・なんでそうゆうことを普通にいえるんだろう・・。 こうゆうときに限って、桃先輩は真剣な瞳で俺を見つめる。 「わかったから!・・そんなに見んな、バカ」 いつもと違う姿にどぎまぎしてるのは桃先輩だけじゃない。 夜闇と月に照らされた桃先輩は、いつもじゃ考えられないほど大人びてて、 馬鹿騒ぎが大好きな子どもみたいな普段からはかけ離れて、 大人の色気のようなものが漂っていた。 やっぱりこの視線はダメだ・・。 顔のほてりに耐えられず、桃先輩に背中を向ける。 「んだよ、こっち向けよ」 その一言を知らんぷりしていると、長い腕に背中ごと抱きしめられた。 背中に桃先輩の体温と、心臓の鼓動が響く。 桃先輩の言葉と触れられてしまうというだけで、 俺のどんなに固いガードも、するりと抜けられてしまう。 そして、くるりと簡単に体の向きを変えられ、胸に抱きこまれる。 「越前、好きだ・・」 なんだよ・・ずるい・・・よ。 「な、おまえは?」 そんなの・・・ 「・・・・・だ、よ」 「ん、なんだって」 「好きだよ・・俺だって・・」 胸の中で消えるようにつぶやいた言葉も、桃先輩にはしっかり届いていて、 返事の代わりに、強く抱きしめられた。 ・・もう、痛いってば・・馬鹿ヂカラ。 「俺はもっっっと大好きだからな!!!」 はいはい、と返事をして、見つからないように胸の中で小さく笑った。 しょうがないから、もう少しだけ大人しくこうしてあげる。 抵抗しないで、桃先輩に体を寄せていたら、頬や唇にキスが降ってくる。 最初は触れるだけだったのに、次第にお互いにその感触をたのしむように、 キスに夢中になっていた。 「あぁっ!マジもうこのまま押し倒しちまいてぇ!!」 「なに言ってんの、ダメに決まってるでしょ」 「んじゃ、俺んち行こうぜ、な♪」 「もう、今日はお祭りに来たんでしょ」 「花火は見たし、食うもん食ったし、いっぱい歩いたぜ!」 「まったく、そんなことばっかりなんだから」 「おう!俺の頭は常に越前のことでいっぱいだかんな、それに――」 「それに?」 「それじゃ、もう歩けないだろうしな」 桃先輩が指をさすのは俺の足。 ・・う、、気づいてたの。この曲者。 「心配すんなよ、帰りはおぶって帰るし」 「や、やだよそんなの!」 「だってそれじゃ歩けないだろ。それともお姫様抱っこで帰るか?」 「もっとやだ」 「だろ」 「相っ変わらず軽いなぁ」 「結構最近食ってんすけどね」 「まぁ、俺と運動してっからだな」 ・・・・・・。 どっちのことを言ってんだか、わからない。 細いあぜ道を桃先輩の背中に揺られながら、たまにすれ違う家族連れに顔を伏せた。 「夜風ってきもちいよなぁ」 「そうっすね」 人ごみのざわめきが消えていく。次第にまたふたりの世界。 聞こえるのは、すり抜けていく風、虫の声と、絶え間なくなり続ける花火の音。 「な、越前。来年も浴衣着てまた一緒に来ような、」 「そうだね・・」 しっかり桃先輩の首に手を回して、顔をぴたっとくっつけて、 こんなときくらいは、俺も気持ちをまっすぐに伝えて・・・ 「桃先輩、」 「ん・・」 「だいすき」 耳元でささやくと、ぴくっと桃先輩が反応して・・ 「・・・・・・・・・おまえ、家ついたら、覚悟しろよ」 よくは見えなかったけど、桃先輩の顔が少し赤くなった気がした。 あなたと一緒の夏を、一生に一度の今の夏を、何よりも何よりも大切にしたい。 初めてこころを許したあなただから、あなただけへの想いがあるから。 ―――来年もまた一緒に、あなたと過ごしたい。 おまたせいたしました。 蒼城 煉さまリクの「花火大会で浴衣着用」でした。 よく考えたら、花火大会じゃなくて、夏祭りになってしまいました( ̄□ ̄; ひぃ、ごめんなさい!もしこんなんでも、少しでも気に入ってくれたら幸いです。 |