12月23日 PM10:13 「こんな時間にどーした、リョーマ」 俺が玄関を飛び出そうとした瞬間に、大きな壁が立ちふさがった。 下から見上げるように睨んでやったら、更に不服そうな顔で、 構わずに先へ進もうとした俺の腕をぐいっとつかんだ。 「離して」 「もう10時過ぎてんだぞ」 「だからなに」 「中学生がこんな時間に外になんの用だ?」 桃先輩とデート、なんて言ったらこの人はどんな顔するんだろ。 そんなことを思ってクスっと笑った。 「なぁに笑ってんだ」 「親父には関係ないでしょ」 「出かけんなら昼にしろ、昼」 そう言い放った親父は、俺の服をつかみ、部屋の中へと引きずり込む。 俺は親父に暴言を吐きながら、必死に玄関へと這おうとするが、 親父をすり抜けたと思った途端に、また捕まる。 「子どもは部屋で大人しくしてろ、つーか寝ろ」 「絶対やだ」 「生意気坊主は、部屋へ強制送還」 「やだ」 「悪い子にはサンタさん来ねぇんだぜ?」 「別にプレゼントとかいらないし」 意地でも対抗しようと、俺は親父の横をすり抜けようとするが、 まだまだだね、とからかいながら言う親父に、あっさり捕まってしまった。 「離せ馬鹿親父!」 「はいはい。お出かけはまた明日な」 ぐいぐい引っ張られるうちに、階段を上がり、 部屋まで連れてこられてしまった。 「おやすみ、青少年」 バタンと勢いよくドアを閉められ、閉じ込められた。 親父が階段を降りていく音が聞こえる。 そしてきっと、またリビングのテレビの前でどっかり座るんだろう。 玄関に行くにはリビングの前を通らなきゃいけないから、 抜け出そうとしようものなら、またすぐに捕まってしまう。 軽い監禁状態ってやつ・・・。 「はぁ・・・」 深いため息が出る。 今日はどうしても、行かなきゃいけない場所があるのに。 だって桃先輩と約束したんだ・・・ 今日、桃先輩は俺に、じゃあなと手を振った。 いつもは一緒に帰るけど、桃先輩は、 『青学テニス部恒例クリスマスパーティ』の役員になってしまって、 その準備が、クリスマスイブの前日、つまり今日に当たってる。 桃先輩はパーティとかそうゆうの好きな人だから、こうゆう役割も喜んでやるけど、 だけど俺は、桃先輩と過ごしたかった。 はじめて好きになった人と一緒に、過ごしたかった。 俺の誕生日を・・・ 俺は、それを口に出さずに、そんな気持ちを悟られないように振舞ってたけど、 『越前、夜抜け出して公園まで来いよ』 『え・・・』 『絶対来いよ』 そう桃先輩は耳打ちして、笑いながら俺に手を振ったんだ。 「あんのクソ親父っ・・!」 ぼふっとベットの上の枕を叩き、寝っ転がる。 見上げた先には小さな紙袋が1つ。 俺から桃先輩へのクリスマスプレゼント。 はじめて人にあげる、俺からのプレゼント。 俺はここから早く抜け出したくてたまらないのに。 それを笑うかのように、カタカタと冬風で窓が鳴る。 ・・・もしかして、桃先輩もう待ってるかな。 そんなことを考えたら、更に気持ちが焦る。 時計は10時半を指してる。 そういえば、桃先輩は夜とだけ言って、正確な時間は言わなかった。 桃先輩のことだから、俺が来なくても何時間でも待ってそうな・・・。 「やっぱ行かなきゃ・・」 ガチャ。 ・・・ん? あれ、ノブが動かない。 「リョーマ〜、往生際が悪いぞ」 ドアをガチャガチャと動かす音が聞こえたのか、階段下から親父の声が聞こえる。 あんのクソ親父、いつのまに。 普通ここまでする? 頭に親父の笑い顔が浮かんで、ドアを蹴り付ける。 カタカタ。 また窓が風でカタカタなってる。 ・・・このテがあったじゃん。 俺は急いで、コートを着て机の上の紙袋を手に取った。 |