一瞬



空気が・・・消えたような気がした。

だって一瞬・・・息ができなかったんだ。







「ははっ・・・も、桃、なに言ってんだよ おチビじゃん。」

「おチビ・・・?」



首をかしげる。



「桃城おまえ・・・ふざけてんのか・・・?」

「あんだよマムシ。俺がいつふざけたんだよ!」



いつもみたいに 少しムキになって 海堂先輩を見上げる。 



「桃、越前だよ!越前リョーマ!!」

「タ、タカさん・・・え、こいつの名前っすか?エチゼンリョーマって」



また・・・首をかしげる。



桃先輩の発言の後は 誰も何も言わなかった。

俺も何も言わなかった。





・・・言えるわけない・・・





・・・きっと・・・聞き間違い・・・





そう思っていても桃先輩は 不思議そうに俺のことを見つめる。

それが 事実。










ねぇ、なんでそんな顔で俺を見るの?



なんでいつもみたいに 笑ってくれないの?















そんな目で・・・俺を見ないで・・・















「医者を呼んでくる」

「乾、俺も行くよ!」



乾先輩と河村先輩が走って 病室を出て行った。











俺も・・・・・・

・・・・・・どうしたらいいのかわからない。

ただ、もうここには居られなかったんだ・・・





「越前!どこ行くんだ!」

「越前!」

「おチビっ!!」



下を向いて 誰の顔も見ずに 全速力で走った。

走って 走って どこを走ってるのかわからなくなって

それでもどこかへ走り続けた。

ひた走る涙が止まらない・・・



















俺の前に居た人は誰?



あんな瞳で 俺を見た人は誰?



なんで・・・ ねぇ、なんで・・・・・・



なんで俺だけ・・・・















・・・俺のことだけ わからないの・・・















病院を出て 庭の芝生の上でひざを抱えた。

体の震えが止まらない 桃先輩の表情が頭から離れない。

ねぇ、どうして・・・







笑い声を聞いたとき 初めて笑顔を見た時

会って一番最初に バカって泣いて殴ってやりたかった。

息ができなくなるくらい 抱きしめてやりたかった。



でも そんなことできない。できやしない。

だって・・・桃先輩は・・・







・・・・・・・・・俺がわからない。

























「越前・・・やっとみつけた」

「っく・・・乾、先輩・・・?」



涙でぐしゃぐしゃの顔を少しだけ上げる。

肩で息をしながら、乾先輩は俺の横に座った。



「も、桃、先輩は・・・」

「・・・今医者に見てもらってるよ」

「そう・・・」

「みんな心配してる、戻ろう?」







戻る・・・?

どこへ・・・?俺に、どこへ帰れって言うの。

苦しいくてのどが痛い 声はどんどん枯れていく。

それでも涙は止まらない。







「気休めかもしれないが・・・」



独り言だと思って聞いてくれ、と乾先輩はゆっくり話し始めた。



「ああいう突発的な事故は 防御態勢が取れないことがあるんだ」

「・・・・・・・・・」

「人間は事故に遭う直前 無意識に体や頭で防御体勢をとるんだ。

しかし桃城の場合それがない」

「・・・っ・どうゆうこ、となんすか・・・」

「その場合 体の治療に専念するため、負担を減らそうと 一時的に記憶を抑制する」

「・・・抑、制?」

「記憶の中で一番の負担になるものが抑制され 身体の回復と共に記憶も回復する。」

「フタン・・・」

「いや、負担といってもこの場合は 桃城の中で一番大きな存在を指すんだけどな」

「・・・一番大きな・・・存在」

「意味、わかるな?」

「・・・はい」



ごちゃごちゃな頭をできる限り働かせて 乾先輩の話を理解した。

体の治療に集中するために 脳が一時的に記憶を抑制していて

体が回復すれば 記憶も戻る・・・?

失われた記憶は 桃先輩の中で最も大きな存在・・・ということ



この話が本当なら・・・

桃先輩の足が治ったら 俺のことを



・・・・・・思イ出シテクレルノ?



「越前、行こう。みんな心配してる」

「っス・・・」

「歩けるか」



涙をぬぐって よたよたと立ち上がる。

乾先輩の話を聞いて 少しだけ希望が沸いた気がした。

それでもまだ 今の俺には桃先輩のいる病室に戻ることができる程の

余裕はなかったんだ。





















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