いつものように俺の家で、越前とふたりで過ごしていた。
ところが、越前のその一言で、俺達は違う世界に引き込まれることになる。

「桃先輩・・・そのコ誰・・・」
「そのコ?」

越前が俺を指差す。しかし視線は合わず、
それが俺を指しているのではないことがわかった。
振り向いてみると、ドアから半分だけ顔を出して、
こっちを見つめているツンツン頭の子供が一人。
なんだか、見覚えがある子だ。
だけど、今日は客なんて来てないし、もちもん、俺の妹や弟でもない。

「おぉ!?どこから入ってきたんだ?」

俺がその子供の方へ向き直って驚くと、そのチビもビクッと驚いて一歩下がった。
その拍子に、バランスを崩してしりもちをついた。

「大丈夫か?」
「ウン」

心配になって声をかけたもつかの間、そのチビはひょいっと起き上がって、
ぺたぺたこっちに歩いてきて、俺の膝の上に座った。

「なんだなんだ?」
「・・・桃先輩の、子供?」
「阿呆」

ぺしっとツッコミを入れてやりたかったが、こいつがひざに座ってるため動けない。
ひざの上に座って今度は、越前の顔を凝視。
見つめられて越前は、俺とこいつの顔を交互に見比べ・・・

「やっぱり桃先輩の子だ!!!」

泣きそうな顔でそう叫んだ。
実際俺に子供なんか居るわけもないが、越前のあまりの焦りように、
どれどれとひざに座ってるチビを抱き上げ、向かい合わせに座らせる。
< 俺の顔を見上げるその顔を見て、目が飛び出るかと思った。
昔から変わらないこの髪型と、幼時代のアルバムの写真とそっくりそのままの子供。
俺の子供ってゆーか・・・・・・俺本人じゃねぇか!!!

「越前!よく見ろ!!これは俺本・・・」

弁解をと、そこまで言いかけて、つばを飲んだ。
なぁ、越前・・・おまえの後ろに居るのは誰だよ・・・


「うわあっ!」

いつの間にか越前の背後に居たもう一人の子供。
俺が声を上げると途端に、その子は越前の背中をぎゅっと抱きしめていた。

「なにすんの!誰っ!?」
越前は必死で背中に抱きつく「何か」を引き剥がし、
俺はその様子を、狐につままれたような顔で見ていた。
引き剥がした後、越前はその子と視線を合わせた途端、目を見開いて
口をぱくぱく動かした。

「こ、こ、こ、こ、この子・・・・・・」
「・・・あぁ。たぶん、そうだ」

ようやく俺の気持ちをわかってくれたかと頷くと

「この子・・・・・・誰っ!?」
「アホかおまえはー!」

そんなこと言っちゃう越前(泣)
わざとやってんのかと聞きたくなるほど、阿呆な答えにまた思わず突っ込んだ。
たぶん、気が動転してて理解できてねぇだけだと思うが。いや、俺も理解できてないが。
越前の頭がグルグルしている間に、その子供はそそくさと越前の膝の上にちょこんと乗った。
俺と合った目。

・・・間違いねぇ、こいつは越前だ。
このおすまし顔、さらさらの髪、綺麗な瞳、それは今の越前となんら変わらない姿だった。
サイズ以外は。

「桃先輩・・・っ。俺、子供なんていないっすよ!!?」

「わかってるって。どう見てもそれはおまえだろ」


わかってるって言っているにも関わらず、越前は違う違うと言って、
両手を思いっきり動かして焦りまくる。
・・・かわいいなぁ、コイツ。
って違う違う!!こんなこと言ってる場合じゃない!
いきなり出てきた俺達そっくりなガキんちょに俺もわけがわからない。

「でも、なんで!?どうしてっ!?」
「お、俺だってわっかんねぇよ!」

言葉につまりまくりの俺達。
大慌てで二人、あーでもない、こーでもないと、議論を交わしていると、
チビたちの声が全く聞こえないことに気づいた。
必死になって焦ってる俺達の様子を物珍しそうに見ている。
・・・・・・。

「越前・・・俺達もっと冷静になろうか・・・」
「そっすね・・・」

恥ずかしくなって、一瞬の沈黙。
その後、なんとか冷静を装って、膝の上の子に話しかける。

「なぁ、僕お名前は?」
「ももしろたけし!」

今まで静かだった雰囲気を吹き飛ばして、手を上げて元気よくそう答えた。
よくできました。・・・いや違う違う!!!!

「その子、桃先輩なの・・・?」
「俺だって信じらんねけけどさ、そう考えるしかな・・・」
「ねぇねぇ、兄ちゃんの名前は?」

シャツをくいっと引っ張って、見上げられる。

「・・・桃城武」

なんかこの状況、いいにくいなぁ。
でも本当のことだし、しょうがないか、と自分の名前を告げる。
予想通り、こいつは自分と同じその名前に反応して

「ちがうの!俺がももしろたけし!!」

自分の名前を取るな!とでも言いたげに、俺を怒る。

「そっかそっか。じゃあ呼び名は桃ちゃんだな」
「えっ。なんで知ってるの!?そうだよ!
みんなからも桃ちゃんて呼ばれてるんだ〜♪よくわかったねっ」

そりゃそうだ。幼稚園時はモモちゃんで通ってたからな。
すると今度は表情一転。思いっきりな笑顔で、嬉しそう。
単純なんだな、俺って。でもかわいいなぁ、俺。

「・・なんか、面白いもん見た」
「おまえもなんか話しかけてやれって〜」

俺達のやり取りをみていた越前の膝の上で、チビ越前もじっとこっちを見ていた。
越前とチビ越前の会話も興味深いものだと思い、早く話せ、と越前を急かす。
そしてチビ越前の方にはにこっと笑いかけてやる。
途端、フンと視線を逸らされた。
うっわ・・・かわいくねぇ。

「ねぇ、君名前は?」
「えちぜんりょーま」
「へぇ」
「お姉ちゃんの名前は?」
「・・・・・・・・・」

ブふっ!!!!!!!!!!!!
越前がお姉ちゃんだってよ!!!!腹いてぇのなんのっっ
俺は腹を抱えて笑った。それでも笑いは止まらない。
真顔でそれを言ったチビ越前の顔を見ていると、余計笑いが増殖される。

「桃先輩笑いすぎっ!!!」
「あはっはっはははは!わりぃわりぃ。ブッ・・・ッッ」

堪え切れなくてまた笑い出した。

「お姉ちゃんじゃないの!俺オトコ!」
「お姉ちゃん男なの??」
「だから・・・っっ」

おっ。越前に怒りマーク。
越前が幼児虐待を始める前に、なんとか笑いを堪えて俺が間に入った。

「まぁまぁ。そう苛めるなって越前♪」
「フン。もう知らないっ。こんなガキ」

これおまえなんだけどなぁ、と笑いながら、
なだめるように頭をぽんぽん叩いているうちに、いつのまにかチビ共は、
ふたり並んで、自分たちのおしゃべりをしていた。

「なーりょーま。あの兄ちゃんいまエチゼンって言ったぞ」
「うん。あの人もエチゼンてゆーのかな」
「きーてみよーぜ」
「うん」

「ねーねー、お兄ネーちゃん。名前なんてゆーの?」
「なんだ?お兄ネーちゃんて越前のことか!!(爆笑)」
「・・・ぶっとばす」
「まーまーまーまー笑」

本気で殴りそうな勢いに、後ろから抱きしめるようにして、越前を止める。

「でも、越前。名前くらい教えてやれよ。今度はそっちで呼んでくれっかもよ?」

俺の意見に越前の力が弱まった。

「越前リョーマ」

語りかけるようにそう伝えてやると、途端に今度はチビ越前が怒り出す。

「えちぜんりょーまはおれなの!!おまえはちがうの!!」
「まーまーまーまー!」

俺がしてるのと同じようにして、チビ桃はチビ越前を抱きとめた。
なんだかその光景が微笑ましい。
もし俺達が幼稚園時代から一緒だったからこんなんだったのかなあ、と思ってしまう。
ほっぺたを膨らまして怒る越前の頭を、俺がぽんぽんたたいている。
しょうがないだろ〜同じ名前なんだからと、チビ越前をなだめているチビ俺。
今と変わんねぇなぁ。
こっちの越前も、チビ共のやりとりに見入ってるのか、静かになった。
俺と越前も、そして俺達の前に居る俺と越前も、
同じような体勢で向かい合っていたのがやっぱりなんだかおかしかった。
そして、チビ越前の機嫌もようやく治まって、お互い落ち着いたところで
俺達4人の、不思議な時間が始まった。














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