今日、桃先輩とはじめてけんかした。

「桃先輩のばかっ!!!」

そう言うなり俺は開いていた窓から飛び出した。
瞳には留めきれない量の涙がこみ上げて、ぽたぽたと流れ出した。
こんな気持ちのまま桃先輩の顔なんか見れない。

俺は見つからないように、英二先輩の家に逃げ込むことにした。
門をくぐると、英二先輩が芝で気持ちよさそうに昼寝をしていた。
その平和そうな顔に近づいて、

「あの・・英二先輩」

やめろよぉ〜と笑いながら寝言を言う英二先輩に、俺はもう一度呼びかけた。

「英二先輩!」
「んん・・?あれ、、おチビちゃん」

眩しそうに片目をつぶって、俺を見上げた。

「ちょっと、俺ここにいてもいいかな・・」
「いいよ!大歓迎♪せっかくの日曜だってのに大石が仕事に行っちゃって暇だったんだ☆」
「そうなんすか・・」
「おチビも暇なの??」
「・・まぁ」
「な〜んだ♪今日いい天気だからてっきりおチビは桃とデートとかしてるのかなぁと思ってたのに♪」

デート・・・ね。
したかったな。ほんとうは。

「桃先輩とけんかしちゃって・・」
「そうなの!?」
「うん・・俺が一方的に出てきちゃったんだけど」
「それは絶対桃が悪い!!」
「え・・・」
「だってこんなにかわいいおチビちゃんが悪いわけないもんv」

けんかの理由も知らないのに、英二先輩は俺の味方になってくれた。
俺は少しだけ安心して、その場に座り込んだ。

「どうしてけんかしちゃったの?」

さっきのにっこりとは打って変わって真剣な表情になった英二先輩に、
俺は理由を話すことにした。

「桃先輩が、バイトはじめるって言い出すから・・」
「バイト?」
「お金が欲しいんだって。それで俺にいっぱいおもちゃとかおやつとか買ってあげたいんだって」
 嬉しいけど、桃先輩との時間犠牲にするくらいなら・・俺、そんなの要らない」
「それが原因?」
「うん・・」
「ふや〜!愛されてるねおチビ〜」
「でもいらないもん。桃先輩部活でいつも帰るの遅いから、俺は今でもあんまり一緒に居れないのに、
 バイトなんてしたら、俺・・・桃先輩に会えなくなっちゃう」

それを言い終わる頃には、俺はまた目に涙をためていた。

「泣かないで〜おチビちゃん!!う〜やっぱり桃が悪いんじゃん〜!」
「桃先輩は俺のためって言うけど、俺全然そんなの・・嬉しくない」
「そっかー桃はおチビちゃんにいろいろ贅沢させてあげたいんだね」

俺のために一生懸命お金をためて、いろいろなものを買ってあげたいと言う桃先輩と、
それよりも少しでも長い時間一緒にいて欲しい俺と・・・。
すれ違ってしまった想いのせいで、せっかくの日曜日なのに桃先輩といる時間が短くなってしまった。

「でも俺は桃の気持ちもわかるよ。好きな人にはいろんなことしてあげたくなるもん。
 俺も大石にはそう思うよ。おチビちゃんだって桃にそう思うでしょ?」

俺は・・・・

「あ、大石だ♪おかえり〜!!」

俺が考える暇もなく、英二先輩は仕事を終えて帰ってきた大石先輩の下へすぐさま走っていった。
そして当然のように大石先輩に飛びついて、笑顔になって、頭をなでてもらっていた。

「ただいま英二。ん、今誰か来てたのか」
「うん、おチビちゃんがね♪あれ、いない・・」

二人に見つかる前に俺はこの場を飛び出した。
ふたりの姿を見るのが辛かったし、桃先輩にまた見つけられちゃうかもしれない。
俺は、夢中で走って、おもむきのある一軒家の前で立ち止まった。
カラカラと少しだけ戸を開けると、俺はするりと体を滑り込ませた。

















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