「へいらっしゃい!!あれ・・」

河村先輩が上の方できょろきょりしているので、俺は足元まで行って、
くいくいとすそを引っ張った。

「あれ、リョーマ君じゃないか。今日はひとりでおさんぽかい?」
「ま、まぁそんなとこ」
「せっかく来たんだから、おさかな切ってあげるね。」
「え、いいの?」
「もちろん、うちの大切な常連さんだしね」

河村先輩は気前よく魚をさばきだした。

「今日は桃は家にいないのかな。ここへ来る道はもう覚えた?」
「ちょっと迷いながらだったけど、ね。桃先輩は・・・家にいると思う、たぶん」
「それなら一緒に来ればよかったのに」

それに返事を返すことができず、俺は黙ってしまった。
そして

「けんかだね」

店の奥から奥さんが顔を出した。
きれいな声なのに、登場の仕方がいつもこれだと、さすがにびっくりする。

「・・なんでわかるんすか」
「だっていつもラブラブな君たちが、こんな天気のいい日曜に別々にいるなんて、
 それしか考えられないもの」
「桃とけんかしてたのか、ごめんね、わからなくて」
「あ、いいんすよ、俺も少し悪いし・・」
「それで、なにがあったの?」

距離を詰めて微笑む不二先輩に俺はしぶしぶ理由を話した。

「へぇ、桃もかっこいいことできるようになったんだね」
「そうだね、自分のことだけじゃなくてちゃんとリョーマ君のこと考えられるようになったってことだもんね」

自分の子どもの成長をしみじみする両親のようにふたりは顔を見合わせてにっこり笑った。

「桃の気持ちもわかるけど、君の気持ちもわかるよ。桃がいないとさみしいんでしょ?」
「・・俺は、桃先輩と一緒にいる時間を減らしたくない・・」
「それを桃にちゃんと伝えなきゃね。ちゃんと話せば桃はきっとわかってくれるから。
 それから、桃の気持ちも少しでもいいからわかってあげてね」

桃先輩の気持ち・・・。

「それを食べ終わったら、桃のところに行ってちゃんと言うんだよ」
「うん・・」

河村先輩は、がんばってとおさかなを一切れ追加してくれて、
不二先輩は、俺でも飲めるくらいのぬるいお茶を出してくれた。
気持ちを落ち着けて、ごちそう様を言って、俺は河村寿司を出た。
戸をからりと開けると、

「おかえり」

笑顔で桃先輩が待っていたので、俺は息が止まるほどびっくりしてしまった。
けんかしたときは言えなかった「さみしい」という言葉。
桃先輩にちゃんと言おうと決めたのに、桃先輩を目の前にしたら、俺の体は固まってしまった。

「桃先輩。俺・・」
「おまえのこと探しに来て、声が聞こえたもんだから立ち聞きしちまったよ」
「もしかして・・俺の話全部聞いてた?」
「おう、バッチシ。ごめんな、わかってやれなくて」
「俺も、ごめんなさい・・」
「なんでリョーマが謝んだよ」
「だって、桃先輩は俺のためにしてくれるつもりだったんでしょ」
「そうだよ。でも越前が望むなら、バイトなんてやらねぇよ」

桃先輩は俺を抱き上げて、俺の耳元で、

『俺にとってだってリョーマといる時間は大切な時間なんだから。』

そうつぶやいた。


















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