「やっべぇ!!遅刻する!そんじゃ、行ってくんな」
「うん。いってらっしゃい」

ぐりぐりと頭をなでられて、今日も桃先輩は学校へ。
急いで走っていく桃先輩の後姿を見ながら、伸び上がってあくびをひとつ。
あーあ。今日もまた暇になっちゃた。
今日はなにをして遊ぼうかと、部屋に戻ろうとしたとき、
キィ・・・と玄関のドアが風で開いた。
あわただしい朝に、桃先輩は家の鍵を閉め忘れていってしまったみたい。

『俺がいないときは危ないから、うちでいい子で待ってるんだぞ』

桃先輩の言葉が脳裏に蘇ってくる。
だけど、わずかなドアの隙間から流れ込んでくる風に誘われるように
俺の足は自然とドアに向かう。

「いいよね。今日1日くらい」

かきたてられる冒険心のまま、俺はいつ閉まってしまうかわからないドアの隙間めがけて
体を滑り込ませた。

何もかもが知らない外の世界、周りの景色に目を奪われながら
住み慣れた桃先輩の家を後にすると、
カチャリと、玄関のドアが閉まった。

「さぁ、これでもう行くしかないよね」

ただ真っ直ぐに歩いてるだけでも、今までと全然違う世界。
ダンボールに押し込まれた町と同じ町なのに、
今歩いているこの場所は明るい平和な世界に見えた。
それは今俺にはちゃんと家があって、桃先輩が一緒にいてくれるからなんだろうな。

しばらく気の向くまま歩いていると、曲がり角にさしかかった。
右に曲がってみる。
方向音痴の俺でも、角に来たら毎回右に曲がっていれば、迷うことはない。
帰るときは逆を曲がって歩けばいい。
そう思って、ぐんぐん道を突き進んでいく。

青い屋根の家、赤い屋根の家、木に草に、横断歩道。
めくるめく外の世界の景色に見入りながら、歩いた。
桃先輩と一緒の散歩はもちろん楽しいけど、一人で歩く町はスリリングで、
自分の好きな速度で歩けるし、なによりも「ほら、帰るぞ」って
途中で道を引き返さなければならないこともない。
調子に乗って歩いて曲がってを繰り返していると、ふとある家の前をさしかかった。
そこで、思わず立ち止まった。
見慣れたひとつの家。
でもそこは桃先輩の家じゃない。
昔、楽しかった想い出と、俺の一番悲しい想い出が詰まった家。

・・・俺の、前の飼い主の家・・・。

その家を見た途端、悲しい想い出の方だけが蘇ってきて、
俺は振り切るように一目散に走り出した。
まさかこんな所まで来ちゃうなんて・・・
一目散に夢中で道を走りぬいた。

・・・そして、桃先輩の家が恋しくなった。
桃先輩の家に、俺の家に帰りたい。

はっと気づいて、立ち止まる。
ここはどこだろう。
走って走って、右も左も関係なく、好き勝手走ってきてしまったお陰で
見慣れない町はさらに俺の知らない町になってしまった。

「ど、どうしよう・・・」

どうしたらいいのかわからず回りをきょろきょろと見回していると、
近くの植え込みの影がガサガサっと動いた。
反射的にびくっと体を震わせ、そちらに体を向ける。
ゴソゴソと動く草陰からは、今にも何かが飛び出してきそうで、
逃げ出すこともできず、その茂みを見ていると・・・

「わっ!!」

いきなり何かが俺に向かって飛び出した。
なにが飛んできたのかもわからず、バランスを崩して倒れたまま、
俺の上に乗っかるものをどかそうと、ジタバタ暴れまくった。

「わっ、イタイイタイって!!」

そんな声が聞こえたかと思うと、体がいきなり軽くなった。
身をひるがえし、俺の上に乗っていたものが、ストンと目の前に着地した。

「いきなり飛び出したのは悪かったけど、そんなに蹴ることないじゃん〜!」
「ご、ごめんなさい」

ぶーっとふくれながら、俺と目があったのは、明るい茶色の猫だった。
思わず縮こまって謝ると、ぽかんとした顔で俺の近くへ寄ってきた。
な、なんなんだろう・・・てゆーか誰・・・。

「あんま見かけないね。最近ここへ来たの?」
「うん、まぁ。」

俺の顔を覗き込んだあと、周りをぐるぐる回って、くんくん匂いをかぎ始めた。
ち、ちょっとくすぐったくてば・・・!
俺が体をよじると、

「あれ、なんか知ってる匂い・・誰の匂いだっけなぁ」

そう言って腕組みをした。

「思い出せないや〜。で、名前なんてゆーの?」

諦めんの早いなぁ。
今の考え事していた顔はどこへやら、今度はぴかぴかの笑顔で尋ねてきた。

「え、越前リョーマ・・・」
「そんな怯えなくても大丈夫だって!俺は英二。
あ、でも今は大石んちに住んでるか大石英二かなぁv」
「そ、そう」
「んで、おチビちゃんはこんなとこで何してンの?」
「え、と・・・、ひとりで散歩してたら迷っちゃって」
「にゃはははvおチビちゃんてあわてんぼうなんだね!」

・・あの・・・お、オチビちゃん?

「俺、これからウチ帰るんだぁ。よかったらおチビちゃんもおいでよ」
「え、でも俺も家に帰・・・」
「よ〜し決定!レッツゴ〜!」
「ちょ、ちょっと・!」

抵抗する暇もなく、俺は腕を引っ張られてしまった。
このままじゃもっとうちから離れちゃうよ。
ど、どうしよう・・・・・・・・。













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