びっくりして声の方を向くと、息を切らせた桃先輩が立っていた。

「リョーマ!!」

いきなり入ってきた桃先輩にびっくりした英二先輩が飛び起きる頃には、
俺はしっかりと桃先輩の腕の中に包まれていた。

「も、桃先輩・・」

ぎゅっと抱きしめてくれた腕はあったかかったのに、少しだけ震えていた。
俺が桃先輩を恋しがった以上に、俺が思っていた以上に、
桃先輩はきっと心配で心配でしょうがなかったんだ。

「馬鹿野郎、勝手に抜け出したりすんじゃねぇよ!」
「・・・ごめんなさい」

いつもイタズラしたときはゴツンってやられるのに、
今の桃先輩はただただ俺を強く抱きしめてくれた。

勝手に抜け出してごめんなさい・・・
心配かけてごめんなさい・・・
俺もそんな気持ちを込めて、ぴったり桃先輩にくっついた。

「家帰ったらおまえどこにもいねぇし、朝玄関鍵閉めてなかったの思い出して、
 ・・やっぱり外にいたんだな」
「ごめんなさい・・」
「どこ探してもいねぇし、この辺車多いし、嫌なことばっか考えちまったんだからな!」
「ぅん・・」
「心配したんだからな!」
「うん・・ごめん。ごめんなさい」
「・・しょうがないヤツ。よかったよ、見つかって」

腕を離されると、桃先輩はいつもの笑顔で俺の頭をなでてくれた。
怒鳴られたときはちょっと体が震えたけど、桃先輩の笑顔は誰よりもやわらかいんだ。
なでてくれる腕は誰よりもあったかいんだ。そして、ちょっとだけ涙が出た。
へへ・・やっぱり桃先輩が一番好き・・・
ごめんなさいとありがとうの意味を込めて、
俺は桃先輩のほっぺたにキスをした。




「こらー!なに、いちゃいちゃしてんだ〜〜〜〜!!!」

あ、目の前に英二先輩いたんだっけ・・。

「ったくぅ、俺のおチビちゃんを抱きしめるなんて、どこの馬の骨・・って
 あーーーーーーーーーっ!!!」

え、なに!?

「桃!?桃じゃん!」
「お、なんだ、英二じゃん」

桃先輩と英二先輩はお互い顔を見合わせるなり、お互いの名前を呼んだ。

「あーーーーーーー!!わかった」

今度はなにっ
・・と思ったら、英二先輩がまた俺の匂いをくんくんかぎだした。

「んー、コレ桃の匂いだったかぁ。最近会ってないからちょっと忘れてた、はは!」
「なんだ〜俺のこと忘れてたのか?こいつ〜俺の恩を忘れやがって〜〜〜!」

桃先輩は今度は英二先輩を抱えると、ぎりぎりと締めてじゃれあった。
――俺の恩?

「桃、桃ーおチビちゃんが不思議そうな顔してるよ〜」
「そうだ、説明してやんなきゃな」

じゃれあうのをやめると、英二先輩はストンと桃先輩の腕から降りた。

「おまえに会う前な、英二が悪猫に絡まれてたのを助けてやったんだよ」
「さっきおチビちゃんに話したネコのことだよ。
 この前はあのケンカの後、桃が間に入って助けてくれたんだ♪」

詳しく話を聞いたら、英二先輩がその悪猫にやられてるところに、
偶然部活帰りの桃先輩が通りかかったんだって。

「そんで、こいつ足怪我してたもんだからさ、家まで送ったらこーんなに家が近かったわけ♪」

え・・・?家が近い?
近いって、英二先輩とうちが?

「うちと大石さんち、隣同士だぞ?」
「えぇえっ!?」
「リョーマおまえ、気づいてかなかったのか」

嘘だと思って、庭の外へ出て左右を見回すと、左のほうに見慣れたアパートがあった。
それは紛れもなく、うちのアパートだった。

「あははっ、おチビのドジっ子!」
「ほんとだぜ。おまえ本当にネコか〜?」

うぅ・・二人して馬鹿にするんだから。
だってしょうがないじゃん、いつも桃先輩と行く散歩コースは
こっちの道は1回だって通ったことがないんだから。
ブツブツ文句を言っていると、それをまったく聞いてない様子で、
英二先輩は鼻をくんくん動かした。

「わ〜いゴハンだ〜!」
「おまたせ。あれ・・」

英二先輩は目の前に置かれたお皿に、夢中になって飛びついた。
もう、俺の話聞いてよ。

「桃じゃないか」
「うっす、大石さんおじゃましてま〜す!」
「久しぶりだなぁ、元気だったか」
「もっちろんっすよ〜!」

仲よさげにおしゃべりをする二人を見て、世間て狭いんだなぁって思った。
でも桃先輩もこの二人とつながってなんて正直ちょっと驚いた。

「英二、もっとゆっくり食べなさい。あ、リョーマ君もどうぞ」
「なんだ、おまえもゴハンもらったのか。お礼言えよ〜」
「あ、ありがとございます」
「いえいえ」
「すんません、拾ってもらった上にゴハンまでいただいちゃって」
「え、飼い主桃だったのか」
「そうっすよ、まだ紹介してなかったんすけど、これうちのなんでよろしくしてやってください〜」

桃先輩が飼い主だったことにちょっと驚いたみたいだったけど、すぐ笑顔になって、
今度は俺の頭をなでてくれた。

「食べ終わったら探しに行こうと思ってたんだよ。
 そうか。よかったね、ちゃんとご主人様見つかって」
「うん」
「でもごめんな、英二が連れまわしちゃって。ケガとかはしなかったか?」
「平気っす。むしろ英二先輩のおかげで楽しかったし」

「「・・・・・・・・・」」

「え、なんすか」
「なんで英二が先輩なんだ?」
「そうだぞ、なんでコイツがおまえの先輩になんだ?」
「『お世話になったから』かなぁ」

え、えー・・と。だから、

「あの、、じゃ、大石先輩って呼んでいいっすか?」
「へ・・俺も?」
「あ、嫌ならいいんすだけど」
「嫌じゃないよ。それに先輩なんてなんかカッコいいしな」

笑いながら、大石先輩は俺の頭をなでた。しかも、英二先輩と同じようなこと言ってるし。
やっぱり一緒に居ると似るのかな。

「おチビちゃんって先輩って呼ぶの好きだね?」
「呼びなれてるんで」

それに、お世話になった人は『先輩』って呼ぶんだってことを教わって、
自分が世話になった人はそう呼ぶって、自分の中で決めたから・・・。
―――この言葉は、あの人を忘れない約束のようなものだから・・。



「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」

っ!?
また英二先輩!・・と思ったら今度は桃先輩だった。













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