「やっべぇ!全豪オープン始まるの忘れてた!すんません、今日は帰ります!! リョーマが世話になりました!それじゃ!」 「うわぁあっ」 「まった遊びに来いよ〜♪」 早口でそれだけ一気に言うと、英二先輩たちのごあいさつも早々に、 桃先輩は俺を抱えていきなり走り出した。 後ろを振り向くと、大石先輩に抱えられた英二先輩が、 ぶんぶん手を大きく振っているのが見えた。 「もう、桃先輩っ!」 「なんだよ、急いでんだって!!」 「朝、ビデオセットしてきたじゃん。そのために朝遅刻までしたんでしょ」 「・・あ、・・・・・・・・忘れてた」 大事な番組忘れてたに加えて、セットしたことまで忘れてるわけ・・? 大丈夫かな、この人。 「もうっ。俺まだ遊んでたかったのにっ」 「ごめんごめん。また遊びに行けばいいだろ。お隣なんだから」 「そりゃ、そうだけど」 「あーぁ、なんだよ。一気に走ったら疲れちった」 「そりゃ、あれだけ走れば・・それに桃先輩」 「ん、なんだ」 「俺一人で歩けるよ」 すぐ家には着いちゃうけど、今日はなんだか歩きたい気分だから。 「いいだろ。もうちょっと抱かせろよ」 「俺は歩きたいの」 「俺は抱いてたいんだよ」 桃先輩のワガママ・・。 俺が歩きたいって言っても、こんなにぎゅうぎゅう抱きしめられたんじゃ逃げられないから、 しょうがないからおとなしくなって桃先輩の腕に収まる。 「なぁ、今日どこ行ってたんだ」 朝、ドアが開いてて。それから家を飛び出して、ひとりでおさんぽして、 あの家に会ってしまって、迷子になって、英二先輩に会って、友達になって、 大石先輩に会って、ゴハンもらって・・・ 「んー、いっぱい行った」 「おっまえ、それじゃわかんないだろ〜」 「いいの〜」 今日って短い時間の中で、不安も恐怖も楽しさも嬉しさも涙もあった。 短い一日中なのに、世界ってこんなに広いんだ。 嬉しくて、俺は抱いてくれてる桃先輩の胸に顔をすり寄せた。 「ったく・・・。でも楽しいこといっぱいあったんだろ」 「え、、なんでわかったの」 「おまえの顔見てればわかるって。すっごい嬉しそうな顔してるもんな」 「・・ね、桃先輩、また英二先輩んち遊びに行こうね」 「あぁ、行こうな」 ひとりでおさんぽも楽しかったけど、桃先輩とゆっくり道を歩いてるときが一番しあわせ。 桃先輩と一緒が一番しあわせ。 いっぱい歩いていっぱい探検した。おいしいゴハンもいっぱい食べた。 友達がまた増えて、毎日がまた楽しくなる。 俺をとりまくしあわせなものに囲まれて、桃先輩の腕の中で目をつぶった。 「おやすみ、リョーマ」 そして今日も、やさしいキスがふってくる。 おまけ 〜そのころの大石家〜
「さぁ、英二お薬ぬるぞ」 「やだー!それ痛いやつだよ〜〜!」 「前のケガ治る前に、またケガしてきちゃう英二が悪いんだろ」 「絶対やだもんね〜!(脱兎)」 「・・・コラ(掴)」 「うぎゃああ!やだよおおおお〜〜!(泣)」 「今度はちゃーんと治るように、たっっぷりつけてやるからな(微笑)」 「ぎゃあああああああっ!!(号泣)」 |