俺は胸を弾ませて桃先輩の帰りを待っていた。
今日は金曜日。だって明日は土曜日で、日曜日もお休みで。
2日分、俺はたっぷり桃先輩を独り占めできるから。
桃先輩が帰ってきたらなにしようかな。
いつも通りに一緒にごはん食べて、テレビ見て
頭なでてもらって、今日あったことをいっぱいいっぱい話して。
それから、それから・・・!
指を出して数えても数え切れないくらいやりたいことがある。
わくわく気分で桃先輩の帰りを待っていれば、
ひとりでいても、時間が経つのはとっても早くて

「ただいま〜」

声とともに開いたドアの音がして、ぴくんと耳が立つ。
玄関に向かって一目散。
俺は桃先輩の腕に飛び込んでいった。

「おっ。ただいまリョーマ」
「ん、おかえり」

桃先輩の笑顔に、俺の頬も思わずゆるむ。
軽く抱きしめられた状態のまま、唇に軽くキスをされる。

「おっし、夕飯食うか!ハラ減った〜おまえなに食いたい?」
「んー」

ふわふわの厚焼き玉子、あっつあつのグラタン・・・
肉汁たっぷりジューシーハンバーグ、桃先輩特製具沢山カレー・・・
んー・・・どれもおいしそう。
桃先輩が作ってくれる料理はどれも、お代わりしたくなっちゃうほどおいしい。
おなかが空いている分、どれも食べたくなってくる。
桃先輩の食いしん坊がうつったのかな、なかなか決められない。

「まだ決まんねぇの?」
「ん〜・・・」
「早く決めないと、俺がリョーマのこと食っちゃうぜ?」

おいしい料理を思い浮かべるのに必死になってた隙に、耳にふぅっと息を吹きかけられた。
勢いよく耳を手で覆って、即座に桃先輩から遠のいた。
なんだよっシンケンに悩んでたのに!

「へへv顔真っ赤〜」

桃先輩は嬉しそうに笑う。
くっそぅ・・・悔しい。
自分でもわかるくらい顔が火照ってる。
いつもこうやって桃先輩に遊ばれる。
イヤだって言ってるのに、桃先輩はいつもそうやって楽しそうに笑うんだ。
本気でイヤなはずなのに、どうしてか力が抜けちゃって結局怒れない・・・
・・・やっぱりくやしい。

また二の舞を食らわないように、桃先輩との間隔を十分に保ちながら、
キッチンへ向かう桃先輩のあとにくっついていく。
桃先輩は思い出したように手をぽんとたたいた。

「あ、昨日スーパーでいいもん買ってきたんだった!」
「なに買ったの?」
「なんと、季節の特売品だぜ!マジお手ごろ価格!」

クスクス。桃先輩シュフみたいだね。
そして冷蔵庫を開けて中身を確認。
俺の方に振り返って。

「越前。おまえの大好物食わせてやっから楽しみに待ってろよ」
「なになにっ」
「できてからのお楽しみ。それまでそっちで遊んでな」
「ちぇ」

頭をなでられて、しかたなく隣の部屋のソファに寝っころがる。
キッチンからは、桃先輩の包丁のトントン拍子が聞こえてくる。
テレビが置いてあるこの部屋には、俺が前にペットショップで
おねだりして買ってもらったおもちゃが、ころんといくつも転がっていた。
でも、きれいな色のボールも、ふさふさの猫じゃらしも、電池で動く人形も、もうとっくに飽きてた。
おもちゃで遊ぶよりも、桃先輩と話したり、なでてもらったりしてる方が俺は好き。
だから、桃先輩が料理をしている間は早くかまってもらうために、
我慢してつまんないおもちゃをいじってみたり、
ガヤガヤとうるさいテレビを眺めていた。
どうせテレビだって、文字とかムズカシイ言葉でわからないからつまらないんだけど。



しばらくして、キッチンから何かが焼ける音と、おいしそうな匂いが漂ってきた。
それにつられてキッチンに行って見れば、
テーブルの椅子に桃先輩は座ったまま目を閉じていた。
グリルの様子を見るためか、右手にはサイバシを握ったまま。
ブカツで疲れちゃったのかな。
桃先輩はいつも「今日も練習きつかったぜ〜」とか「毎日まいっちゃうよな〜」とか言ってるけど、
俺の前では、いつも元気な桃先輩だった。
だから疲れたとか、きつかったっていうのは、嘘なんじゃないかなって
ちょっと思ってた。
でもやっぱり疲れてたんだね。

近づいても気づかないくらい疲れている桃先輩の寝顔見つめて、ひとこと。
起こさないように“おつかれさま”と囁いて、ほっぺたをぺろっとなめる。
その瞬間、桃先輩の目がうっすらと開いた。
あれ、起きちゃった・・・
一瞬寝ぼけてこっくりしていた桃先輩が、今度はいきなり飛び起きた。
俺はその勢いで飛ばされないように、とっさに避けた。

「魚!!」

そう叫んで、桃先輩グリルの中の様子を見る。
その途端、シューという音とともに、いい焼け具合・・・っていうより
ちょっとコゲ具合の匂いが漂ってきた。

「ありがとな。起こしてくれて」

起こさないつもりだったんだけどな。
でも、起こした方が都合がよかったみたい。

「ちょっとコゲちゃったな。ごめん」
「ダイジョウブ。コゲてる魚も、俺好きだよ」
「そっか」

それから、2匹のちょっとコゲた魚を二人で囲んで、食卓についた。

「「いっただきまーす」」

「ん。やっぱちょっとニガいか・・・」
「そ、そうだね」
「せっかく特売だったのに、ちょっともったいなかったな」
「あ。桃先輩この魚って」
「そそ。おまえの好きなサンマ」
「やっぱり。このサンマ、アブラがのってるっすね」
「お?そんな言葉どこで覚えたんだ」
「この前遊び行った時、河村先輩が教えてくれた」
「いつのまに」
「桃先輩にはアブラ乗ってんの?」
「っ・・!?・・・狙って言ってんのか?」
「?????」
「や、なんでもない(天然か・・・)」
「ねね。じゃあさ、俺にはアブラ乗ってるかな?」
「ぁー・・・たっぷり乗ってると思うぜ・・・」

ほんのり桃先輩が赤くなってたような気がした。俺、なんか変なこと言った?
そんな話をしている間に、俺も桃先輩も、きれいにぺろりと魚を食べ終えた。




後片付けをして、食休みをして・・・
今日こそ、いっぱい桃先輩にかまってもらうんだ。
いつも、明日アサレンがあるんだって言ってすぐ寝ちゃうんだもん。
明日はそのアサレンってやつもないから、だから俺は金曜日と土曜日が好き。
でも日曜日はキライなんだ。
次の日学校があるって言うし、1週間また桃先輩にかまってもらえない日々が続くから。
だから今日はいっぱいいっぱい甘えるんだv
それなのに・・・

「ほら、リョーマ。風呂入るぞー」

なんで。
いっぱい遊んでもらおうと思ったのに・・・
桃先輩はまたすぐお風呂入って寝ちゃう気だ。

「やだ」
「一緒入ろうぜ。俺が洗ってやっから♪」
「やだっ!」
「やだじゃねーの」
「やーーー!!」
「こ〜ンの、生意気坊主〜っ!」

逃げる俺を面白がって抱き上げて、お風呂に連れていこうとする桃先輩。
じたばた暴れても、桃先輩に抱きかかえられれば、そんなことしても全然かなわなくて、
あっけなくお風呂に連れてこられてしまう。
かなわないのはわかっていても、精一杯困らせてやろうと、桃先輩の腕の中で、
俺はできる限り暴れまくった。
















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