「まだ怒ってンのか?」
桃先輩に背中を向けながら、俺はまだほっぺたを膨らましていた。
いやいやいいながらも結局桃先輩にお風呂に入れられてしまった。

「風邪ひくぞ」

濡れてたれた俺の髪からぽたぽたとしずくが落ちて、
桃先輩はそれをタオルでがしがし拭いていく。
俺のが拭きおわると、今度は桃先輩が自分の髪の毛を拭いていた。

「いくら風呂が嫌いだからってそんな怒ることないだろう・・・」

ちょっとすねたような口ぶりで、桃先輩がぼそっと呟いた。
・・・そんな理由で怒ってるんじゃないもん。
お風呂に入っているとき、ずっと俺は怒っていた。
桃先輩は学校で疲れてるだろうけど、俺は・・・
・・・ずっとさみしかったんだから。
桃先輩がいない間。ずっと、ずっとひとりぼっち。
さみしかったことを思い出したら、なんだかじんわり目に涙が溜まってきた。
こんなくだらないことでケンカして、大事な時間をつぶしたくない。
そんなこと思っていたら、体が勝手に心を飛び越して、桃先輩に抱きついていた。

「ん、今度は泣いてんのか」

ぽんぽんと背中をなでてくれた桃先輩に、泣いてないと強がりの一言。
その声は明らかに涙声で。でも桃先輩はよしよしってずっとなでていてくれた。

「桃先輩・・・寝ちゃやだ」
「ん。まだ寝ねーよ」
「だって、桃先輩お風呂入ったらいつもすぐ寝ちゃうもん・・・」
「いつもはな。でも今日は金曜だろ。今日は久々に夜更かしすんだ♪」
「・・・ほ、んと?」
「あぁ。先に風呂入っちまえば、この後好きなだけ遊べるだろ」

すぐ寝ちゃうなんて、ただの俺の勘違いだった。
桃先輩はいつでも俺のことを一番に考えてくれる。
疲れてても、ケンカしても。
だから俺は桃先輩が大好きなんだ・・・
嬉しそうに笑ったその笑顔が、嬉しくて
俺はまた桃先輩にぎゅうっと抱きついた。






それから、散々わがまま言って甘えて、いっぱい遊んで、
俺の話もして、桃先輩の冗談で笑ったり、じゃれあったりして、
たくさん桃先輩と触れ合った。
やっぱり俺はもう、おもちゃなんかじゃ物足りないんだ。
桃先輩と一緒に過ごす時間の方が楽しいことを知ってしまったから。
俺のたった一人の家族。桃先輩に敵うものなんてもうないんだ。

いつの間にか、時計はもう午前2時をまわっていた。
さすがの俺もそろそろ眠くなってきた。
まだまだ1週間分の桃先輩との時間を取り戻すには全然足りないけど、
どうにもこうにも体がついていかないし、まぶたが重い。
そうじゃなくても、桃先輩は今日もブカツで疲れてるんだから、
もっと眠いんだと思う。
さっきから、おっきなあくびを何回もしている。
また明日もお休みなんだし、今日はこの辺でもう寝ようかなって話をして、
桃先輩も俺もベットに入り込む。

「リョーマ、こっちこっち」

電気を消してから、俺の隣にある桃先輩のベットから声が聞こえた。
でも、俺は暗くなった部屋に目が慣れてきて、桃先輩の顔がぼんやりと見えた。
にっこり笑って俺を手招きしてる。
なんだろう。
桃先輩に近づいて、なに、と聞くといきなりぎゅうっと抱きしめられた。

「な、なにっ」
「一緒に寝ようぜ」
「え、でも俺、毛抜けるし・・・」

たまにベットから落ちてしまう俺は、寝相もいい方じゃないし、
ましてや桃先輩と一緒に寝たら、桃先輩を猫の毛だらけにしちゃう・・・
このうちに来たての頃の俺は、今よりさらにさみしがりやの甘えん坊で、
一緒に寝たいって桃先輩にせがんでたっけ。
結局いつもだめっていつも断られちゃってたんだけど。

「休みの間だけ、特別サービス!」

俺は毎日でもいいんだけどなぁ・・・。
せっかくのチャンスを逃すわけもなく、俺は桃先輩のベットにそそくさと入り込んだ。
桃先輩はいつもあったかいのに、まだ入ったばっかりのベットは冷たかった。

「冷たい」
「そりゃまだ入ったばっかりだし」
「あったかいと思ったのに・・・」
ちょっと予想が外れて、頬を膨らます俺に、桃先輩は
「ふたりであっためればいいだろ」
耳元で囁くように呟いた。
「もうっ・・//!!耳はやだってば!」
「悪いなぁ。すぐ近くにあったもんで」
やっぱり、俺はいつもこのパターンで桃先輩に遊ばれる。
それでもやっぱり本気で怒るなんてできないんだけど・・・。
でも、今日はちょっといつもと違った。
いつもは俺の方が桃先輩にくっつきたがるのに、
なんだか今日はそれが逆のような気がした。

「・・・なんだか、今日は桃先輩の方が甘えんぼだね」
「ま、たまにはいいだろ」

冷たいと思っていた布団は、ふたりで寝ていればすぐあったかくなった。
意識を薄れさせながら、ぬくぬくと幸せな時間を過ごす。
ぎゅうっと抱きしめられながら、声を出さないで桃先輩に問いかける。

桃先輩は俺のことが好き?
俺、ちゃんと桃先輩の役に立ってる?
でも、そんなこと俺が聞かなくても、桃先輩は俺といると幸せそうに笑ってくれる。
それは俺にとってもすごく幸せなことだから、きっと
桃先輩にとっても幸せだよね。
そう思って、自惚れてもいいよね。

「おやすみ、リョーマ」
「ん、おやすみなさい・・・」

眠気を増し、舌足らずな声でそう呟いて、
俺は桃先輩の胸に顔をくっつけて眠った。

夢の中でも桃先輩にあえますように。
明日もいい日になりますように。

そんなことを祈りながら、
俺はいつもよりあたたかなベットの中で目を閉じた。






























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