「・・俺、桃先輩のこと好きだけど、先輩としてだから
 俺は女の子が好きだから、先輩とは付き合えない・・」

当然と思っていた答え。
それだけど、今まであんなに仲がよかった俺たちだから、
もしかしたら、ってポジティブな考え方も頭の中にはあって・・

「そっか、普通そうだよな。わりぃ、さっき言ったこと忘れていいから」

顔も見れずに、俺は越前に背を向けた。
ごめんな、今日は送っていけそうにない。
自転車にまたがりながらさっきの越前の声を思い出す。
悲しい気持ちはなかった。
ただ俺は無気力で、胸に穴が開いたようで、心に風がすり抜けていくような感覚を味わった。
自分が今なにを言ってしまったのかを思い出したくなかった。

家に帰って、腹の虫が鳴り食べ物をがっつり詰め込むが、不思議と何の味もしない。
部屋で制服を脱ぎ捨て、ただベットに倒れこむ。
着替えも風呂もないまま、俺は眠ってしまった。



翌朝、目覚ましの音で目覚めるが、なんだか自分の姿に違和感を感じた。

「あれ・・着替えてある」

ワイシャツとズボンで寝たはずなのに、しっかりとTシャツに着替えてある。
そして見上げる壁には制服がしっかりかけられてある。
中学になってからは、自分の部屋は自分で責任を持てと母親に言われたから、
親が着替えさせたわけでももちろんなく。

そして、一番の違和感。
俺は昨日越前と別れ際にキスをした記憶がある。
これが一番変だ。
そんなわけがあるはずがない。
しかし、越前の笑み、唇の感触、頭をなでた掌がこんなにもリアルに思い出せる。
俺は少し考えて、急いで越前に電話をした。

「越前!」
「ん・・桃先輩?・・ちょっとまだモーニングコールには早・・」
「俺たちの関係を言ってみろ!」
「はぁ?かんけぇ?なに寝ぼけ・・」
「いいから!お願いだから言ってくれ!」
「か、関係、って・・恋仲・・でしょ?」
「俺とお前、昨日別れ際にキスしたよな!?」
「キス?したけど、それがなん・・」
「悪いけど俺今からそっち行くからな!」
「はぁっ?なに言っ・・」

ガチャ。
越前の言葉などほとんど最後まで聞かずに、俺は部屋を飛び出した。

「越前!」
「ちょ、ちょっと!なに人んち入ってきてんの!こんな朝っぱらから」

まだ寝ぼけモードの越前に駆け寄ると、俺は息を切らしたまま、 越前を強く抱きしめた。

「桃先輩、なんなの。どうしたの」

少しだけ心配そうに、越前はやさしく抱き返してくれた。
これだ。
この感覚、やっぱり本物・・・

あれは全部夢だったんだ。
なんて残酷なリアルな夢。
越前のセリフだってそれっぽかったし、あの時間の流れ方、
あの絶望感、今でも鮮明に思い出せる悪夢の内容。
夢の終わりは俺が眠るところ。
覚めても今日が夢の続きだって勘違いしてもおかしくねぇだろ。

「はぁ・・ったく、カンベンしてくれよ」
「それはこっちのセリフ!!」

睡眠を邪魔されたからなのか、越前はちょっぴり不機嫌モード。

「わ、わりぃ。あまりにもリアルでやな夢見ちまってさ」

我慢できなかったんだよ。
さらにぎゅうっと抱きしめると、寝起きの暖かい越前の体温が伝わってくる。

「桃先輩、体冷たいよ」
「あぁ、全力疾走で飛ばしてきたからな」
「そんなことしてると風邪引くよ」
「そうだな、バカだな俺・・」

耳元で聞こえる越前の声に少し安心したのか、やっと冷静になることができた。
思ってみれば馬鹿みたいだ。
夢と現実を取り違って、不安になって走り出すなんて。

「ねぇ、桃先輩」

でも抑えられなかった。
これは夢だったんだと思ったその瞬間から、どうしてもおまえに触れたくなった。
抱きしめたくなったんだ。

「そんなに不安だったんなら、一緒に寝てあげよっか」

顔をあげると、越前はやわらかく笑んでいた。

「それじゃ、遠慮なく」

俺は布団の中にもぐりこむと、再び越前を抱きしめた。
越前の匂いと小さい細い体。
あの夢がどんなに現実的で残酷でも、
こっちの世界こそが、俺の本当のリアル。



















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