桃先輩が俺じゃない誰かに笑いかける。 大好きな笑顔なのに、その笑顔が俺を苦しめる。 「わりぃ、その日先約あんだわ。ごめんな」 クラスの女の子から話しかけられて立ち止まった桃先輩は、 少し立ち話をして、笑顔でその子とわかれた。 きっとその日は、俺とデートの約束の日だった。 だから桃先輩は断ったんだろうケド、もし俺との約束がなければ、 桃先輩は行ってしまっていたのだろうか・・・。 チクッと胸に刺さる針のような感情。 糸のように細いわずかなものだけれど、それはずっと俺の心から抜けないでいる。 ここであからさまな不機嫌な顔をすれば、 桃先輩は俺の気持ちに気づいてくれるんだろうけど、 俺はまだそこまで素直になれないでいた。 「越前、今度の日曜どこいこっか」 「桃先輩んちがいい」 一瞬桃先輩が目を見開いた。 『どこでもいい』いつもの決まった俺の答えを、桃先輩は想像していたんだろう。 「お、おれんち?」 「うん。桃先輩んち」 行っていいでしょ。そう言って見上げると、 「もちろんいいぜ!」 嬉しそうな桃先輩が肩を抱いた。 さっきまでの距離が一気に縮まった。 そのとき、さっき桃先輩と話していた女の子と目が合った。 うらやましそうな目で俺を見るその子を見て、 俺は思わずくすっと笑ってしまった。 俺のもんだもん。 これくらい見せ付けてもバチはあたらないでしょ? 王子の胸にささった小さい針は、このあと桃先輩の愛で溶かされますv |