ターゲット発見。

「コラ待て、越前」
「げっ」

俺の顔を見るなり逃げ出す越前の肩を、
俺はぐいっとつかんで引き止めた。
その光景を見て、周りの女生徒がクスクスと笑った。
やだやだと越前はジタバタするが、今度こそは容赦ない。
腕を絡めて、越前を踏みとどまらせる。
廊下のど真ん中で、俺は持っていた紙を越前に突きつけた。

「越前、この点数はなんなんだ」
「う・・・」

この紙を1枚出せば、毎回越前はぴたっと大人しくなる。

「いいじゃん、赤点じゃないんだから」
「ギリギリだろ。2年になったら赤点だぞ」

越前の答案をつけているときに嫌な予感はした。
解いてある問題数も少ないくせに、ところどころ間違っていた。
ピッと2本線を引いた上に書いた点数にため息をついたところに、
丁度こいつの姿が見えたもんだから、
俺はつい、採点中だったのを中断し、越前にターゲットを絞った。

赤点はそれぞれ、1年は30点、2年は40点、3年は45点と上がる。
今回も越前が取った点数は、赤点ギリギリ30点だった。
前回も、そのまた前回も、だ。

「いいじゃん、まだ1年だもん」
「そうゆう問題じゃないだろ」

何を威張ってるんだか。
コイツはいつも堂々としている。
授業中立たせても、こうやって怒ってやっても
口の端をあげて、満足そうに笑う。

「今日はこの後補習ネ」
「げっ。なんで」
「なんでもなにもないだろ。この答案、家に送りつけてもいいのか?」
「・・・にゃろう」

今日はどうにか大人しくなったものの、
ほんとに、コイツのやんちゃぶりには困ったもんだ。





補習を言い渡したのは、今日が初めてだった。
だけど教室に入って、少し驚いた。
授業が終わったら、教室にいる様にとは言ったが、
こんなにも素直に、しかも俺より先に待ってるなんて。

「お、早いな。ちょっと見直したぞ」
「そりゃどうも」

越前の座っている机の前に椅子を並べ、向かい合わせに座る。
ちょっとした面接のような形。

「でも残念だな。赤点のせいで大好きなテニスができなくてよ」

今日はランキングってのをやるらしいから、その時間を潰されて
相当悔しいだろう。
わざとらしく、笑ってそう言ってやる。
でも、ちゃんと授業受けてればこんなことになんねーんだぜ?

「いいよ別に。今はテニスよりアンタに夢中だから」
「はァ?・・・つか先生に向かってアンタはねぇだろ」

夢中ってなんだよ。
それにアンタ呼ばわりだし。
本当にこの問題児は、ああ言えばこう言う。

「そんじゃ、教科書出して、テスト問題始めからやり直すぞ」
「そんなの、必要ないよ」
「あぁ?じゃあどうやって勉強する気だよ」
「あんな問題、勉強しなくたって出来るし」
「・・・本当だな?」

机の上にバンっとテスト用紙を広げ、生意気をたたく越前に、
間違った中でも、一番難しい問題を指差す。

「んじゃ、これ説いてみな」
「いいよ」

かったるそうにシャーペンを持つと、
肘をつきながら、サラサラとペンを走らせる。
やる気ねぇなぁ、コイツ。
呆れた様子で見ていると、しばらくして越前と目が合った。

「なに、俺に見とれてた?」

クスっと笑う越前。
生意気な表情に、頭を軽くコツンとたたいた。

「あほう。真面目にやれ」
「やってるよ。てゆーかもうできたし」

俺の前に差し出された答案。
こんな早くできるわけねぇだろ、と馬鹿にして答案に目を通す。
・・・・・・・・・あれ。

できてやがる・・・。

「なに困惑してンの」

答案に釘付けになり、きょとんとする俺の顔の横から、
いつの間にか俺の背後にまわってきた越前が、ひょっこり顔を出した。

「・・なんでできてんだよ」
「だから、できるって言ったでしょ」
「じゃあ、なんでテストで間違ったりしたんだ」
「さぁね」

そっぽを向いて、知らない振りをするから、
俺は立ち上がり、越前の顔をつかんで、俺の方へと向かせる。

「なにすんの」
「ちゃんと質問に答えろ」
「だから、最初から出来るってあんなもん。それより・・・」
「なんだよ」
「そんなに顔近づけると、チューしちゃうよ?」

越前の目が妖しく光って、俺は一気に越前から遠のいた。
越前はケラケラ笑っている。
このヤロウ、教師を完全にナメてやがるな。

「本当は今日言おうと思ったけど、困ってるアンタ見てるの楽しいから、延期」
「何の話だよ」
「バカだね。それ言えないから延期って言ってんの。それじゃまた明日ね、桃センセv」
「あ、コラ!」

ひょいっとバックを持ち上げると、
越前は風のように教室から去っていった。
本当に、嵐みたいなやつだ。
切実にそう思った。

「あ・・・」

あいつ、テスト用紙忘れてったな。
仕方ねぇな、今度の授業のときに渡してやんねぇと。
裏返してあるテストを手に取り、
ふと、端の方にちょこっと書かれてた文字に目を奪われる。

『また補習しようね。桃センセv』

・・・ほんと、越前てわかんねぇやつ。
わかんねぇけど、なんだかちょっとおもしろいヤツ。
俺はこんな性格だから、敬語で話しかけてくる生徒は多くはないが、
こんな風に俺に関わってくるヤツは、こいつ以外いない。

今日はよく晴れている。
窓を見下ろすと、下校する生徒、部活をする生徒。
テニスコートでは早々と、越前がボールを打ち込んでいた。

「あんの、テニス小僧が」

楽しげにボールを追い掛け回す姿は、
どんなに生意気を言っていても、まだほんの13歳。
かわいいもんだ。
その姿に、俺は少し笑い、手に持っていた答案用紙を
ポケットにしまった。















初・先生×生徒!
桃→リョです。楽しかった〜。30分で完成しましたよ










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