最近俺は思ったんだ。 うすうす感じていたこと。 いきなりそう思ったわけじゃない。 わからないくらいゆっくりな速度で変わっていく、この変化。 俺は弱くなったんじゃないかって・・・ 「越前、なにぼーっとしてんだよ」 「・・え」 「指されたんだから立てって。ほら、お前にらまれてるって」 厳しいと評判の先生が俺をずっと見ている。 隣には変な汗をかいて、小さく声をかけてきた堀尾。 俺には、隙ができた。 些細なことから少しずつ俺は変わった。 「おまえ最近ぼーっとしてるよな」 「そう?」 「そうそう。そうかと思えばたまーににやけたりとか」 「そんなことしてない」 「してるしてる♪」 なんか良いことでもあったのか、って意味深な笑顔でからかわれたりする。 テニスしているとき以外の時間は、いつもいつもつまらなくて。 にやけるなんて言葉さえも知らなかった俺なのに。 授業中の暇な時間も苦痛に感じなくなった。 暇さえあれば、昨日はあんなに楽しかったのになぁと、過去の出来事を思い出す。 部活をやって、寺のコートでテニスをする。 もちろん一人じゃない。 そこには当然のように桃先輩。 笑ったり、むきになったり、ケンカしたり。 次第に俺は気づいていった。 俺が楽しいと感じているのは、テニスじゃなくて、 桃先輩といることなんじゃないかって。 それからだ。 「プ・・越前、出してる教科書国語だぞ?」 堀尾が吹き出した。無理もない、今は数学の時間。 こうやってたまに恥ずかしいことをしでかしてしまう自分。 その時とっさに思う。 「(桃先輩のせいだ)」 自然と浮かんでしまう桃先輩のいろんな表情。 だから、最近俺の調子が悪いのは全部桃先輩のせいなのだと決め付ける。 隙ができたのも、自分が弱くなったのだと感じるのも桃先輩のせいなんだ。 でも、なんでだろう。 全然いやな気がしないのは。 桃先輩のせいだと思っていながらも、俺は無性に桃先輩に会いたくなる。 そしてやっぱり今日の授業中も、そんなことばかりを考えている。 「越前〜迎えきたぜ!」 お決まりの言葉で、吹き飛ばすような明るい声。 帰りの準備の手を急がせ、思わず駆け寄ってしまう。 こんなこと今までなかったのに、 こんなこと今まで思ったこともなかった。 一緒にいたいという気持ち。 |