「・・そのときその女がいきなり振り向いて言ったの、・・私の顔を返して・・!!」 「きゃあああああっ」 夏恒例の妖怪百物語、闇をつんざくルキアの悲鳴。 怖い話ってある意味、話の内容より突然の女の悲鳴の方に神経をそがれるのは俺だけなのか。 つーか、なんでこいつ死神のくせに怖がりなんだ。 そして井上はなんでこんなにオカルト語りがうまいんだ。 6人が円になり1本のろうそくを囲んで、真っ暗の部屋で怖い話を語りあかす。 俺の場合は、怖い話ってよりも実体験なんだけどな。 「や、やっぱりこうゆう話は心臓に悪いですわ」 俺がやろうものなら、突然声を上げるなっ!なんて言われてぶっ叩かれるんだろうなぁ。 でも今は、ミス猫かぶりの称号のもと、必死に平然を装うとしているルキアがちょっと可哀想になってくる。 でもそれ以上にその可哀想さがおもしろくて、俺はちょっと吹き出して笑ってしまった。 「えぇっ!黒崎君!今の話おもしろかった!?」 めざとく井上に見つかってしまい、俺はとっさにいつもの自分の顔に切り替えた。 ふぅ、おちおち笑ってもいられねぇ。 「いや、ちょっと思い出し笑いを・・」 「そんなに怖がってる朽木さんがかわいかった?」 そうゆういかにも図星っぽいこと言うんじゃねぇよ、この野郎。 にこにこしながら水色が俺をからかう。ここでキレたら負けだ。 俺は必死に堪える。 「なんだぁ!?一護オマエこの可愛い朽木さんが怖がるところを見て笑ったのか!? 横暴だ、痴漢だ、セクハラだーー!!」 ゴイン! 鈍い音がして、倒れる啓吾、握りこぶしの竜貴。 ほんとこのメンバーは騒がしい。 「くだらねぇんだよ、おまえは!もっと静かにしろ!!」 「怖い!鬼!鬼がここにいる!!そしてアナタは天使のように・・」 「たつきちゃん、抑えて抑えて!」 「な、なぁ、一護」 がやがやといろんな声が飛び交う中、ひそやかに俺の名前を呼ぶ声がして、 ツンツンと俺のすそを引っ張り、こそこそと小さい声でルキアが呟いた。 「どうした」 「こ、この怪談話はまだ続くのか?」 「続くのか、ってまだ1人目だぞ。まだ5人いるんだぞ」 「5人!5人てなんだ!わ、私も話すのか!?」 「当然だろ、全員回るんだよ、」 「無理だ、私は怖い話など出来ぬ」 「はぁあ?虚の話でもしときゃいいだろ、つーかなんでオマエ死神のくせに怖がりなんだよ、」 「静かな空間に低く響く声がいやなんだ、薄気味が悪いではないか!」 「虚のがよっぽど気味わりぃだろうが!」 「なにを言う。呪いとかあのドロドロしたグロテスクな姿の方が気味が悪いではないか」 「おまえ、またなんか変な本読んだな・・」 なにを想像しているのか、ルキアはちょっと泣きそうだ。 ほんと、こいつは変な死神だ。 虚退治は立派にこなすくせに、変なところで脆いし、 人間とは思えない妖艶な一面と見たかと思えば、こうやって単純なオカルト話で怖がるし。 そして、井上の提案で集まった、俺、ルキア、啓五、水色、たつきの6人は、 この古びた神社の中で第2話目を迎えようとしていた。 「次はたつきちゃんが話す番!」 「あ、あたしは遠慮しとくよ(聞くのはいんだけど、話すんのあんま好きじゃないんだよねぇ)」 「井上さん一護には語ってもらわないの?」 「黒崎君には最後トリを勤めてもらう計画なの!」 「あぁ、そっか」 「じゃあ次は浅野君の話聞いてみた――」 「OH!次は俺か俺の番か!井上さんがそこまで言うのなら漢・浅野啓五ここでとっておき、 『あぁ、私の首はどこかしら〜それは渚の彼方へ〜』を語って差し上げ――」 「啓吾が語るとギャグになるから、僕が話すね」 水色に割り込まれてしまった啓吾は、後ろの方で一人めげずハイテンションを突き通し何かを踊っているが、 その他のメンバーは、水色の次なる怪談話に息を呑み始めた。 怪談話に夢中になる一同に反して、横でゆっくりとルキアが動き始めた。 何故か啓吾の方に歩み寄ろうとしている。 俺は襟元を掴み、小さな声で話しかけた。 「どこ行くんだよおまえ」 「止めるな。ここでこんな恐怖を味わうくらいなら、あやつと馬鹿をやっていた方が気が紛れ――」 「やめろ!!あんなテンションのやつがこれ以上増えたら俺は逃げるぞ、帰るぞ!!」 「貴様!私を置いて帰る気か!自慢ではないが、私はここからの帰り道を知らぬのだぞ!」 「もう!朽木さんそんな大声出しちゃ小島くんの話が聞こえないでしょ〜〜」 「あ、あら。ごめんあそばせ、井上さん」 「井上さん、続き話すよー」 「あ、うん!」 こんなときでも猫かぶりを忘れないルキアにため息をつき、 俺は心を落ち着かせて、大きくなっていた声を静めた。 「とにかくだ。あいつの仲間になるくらいなら、おまえを引きずってでも家に連れ戻すぞ!」 「馬鹿者、そんなことをしたら・・怖くて逃げ出したみたいではないか!」 「阿呆。怖いから逃げ出すんだろーが」 「逃げぬ、私は逃げぬ!!」 「テメっ!だからそっちに行くなっての!」 「離せ!たわけが!」 「離すか!」 静かに低く怪談を語る水色組と、口げんかに火がつき、段々と声が大きくなる俺とルキア、 そしていまだ一人ラリってる啓吾。 俺は、じとーっと3人の視線を受けた。 「あ、わ、わりぃ!俺やっぱ今日は抜けるわ!!」 「わっ、ちょ、は離せ貴様!!」 俺は3人のリアクションも見ずに、ルキアを引っ張って出口に向かって走り出した。 抜け出して振り向くと、闇と月に浮かび上がり神社は気味悪さを増していた。 ルキアも後ろを振り向く。両手で腕を押さえ、ルキアは少し硬くなっていた。 「や、やはり、途中で抜けて正解だったな」 「つーか、怖いんなら最初から断ればよかっただろ」 「誘われたのだから仕方ないだろ!それに、おまえも嫌いなら何故ついてきた!」 「俺だって誘われたんだよ!!別に俺は怖くねぇし」 「そ、それにあんな誤解を招くような抜け出し方をして!絶対明日何か言われるぞ!」 「・っかってるよ、んなこと」 ぶっきらぼうに歩き出すと、その後をルキアがついてくる。 「怖がりが、エラソーに」 「なんだと貴様!」 「ん、なんだ。おまえの後ろに・・なんか居るぞ・・・」 「きゃああああああああ!!!!!」 っっ・・ぷ。 とっさの演技にしてはリアルだったろ? 心の中で勝ったとガッツポーズをしながら、動揺するルキアを笑う。 「っっっっ!?き、き、き、き、貴様〜〜〜!!!!!」 「あんだよ、んな怒るんって、ちょっとからかっただけだろ」 こみ上げる笑いを抑えていると、ルキアが静かになっていた。 ぴたっと動きが止まったルキアは小さく肩が震えていた。 「ん、ルキア?」 「馬鹿・・者・・。ほん、本当に・・怖かったでは、ないか・・・・」 震えるような涙声に、俺はさっきまでの笑いが一瞬で吹き飛び、 俺、泣かせた!?と生唾を飲み込んだ。 「わ、悪い。悪かった、ごめんなルキア・・俺もこんなとこで怖がりのおまえにあんなこと言うことねぇよな。 な、泣いてるのか・・ルキア・・・?」 泣いているのかが気になって、恐る恐る顔を近づけていくと、 いきなり両頬をルキアの手でサンドイッチにされた。 痛みとかそうゆう以前に、何をされたのか一瞬わからなかった。 「フン、そらみろ。悪さをするとそうゆうことになるのだ」 「っってえぇえ!!」 やっと痛みがジンジンと頬に伝わって熱を持ち始めた。 くっそぉ・・。頬を守るように抑えていると、月明かりでルキアの顔が照らされた。 その目はまだ潤んでいて、あふれそうな涙が瞳に膜をつくっていた。 なんだよ、やっぱしっかり怖がってたんじゃねぇかよ 「悪かったよ。もうしねぇって」 頭をぽんとたたくと、さわるな、舌を出された。 ガキみてぇ。 月明かりでルキアの顔が少し赤くなっているような気がした。 「帰ったらなにすっかなぁ」 「私はもう寝る。今日はいろいろ気疲れした」 「じゃ俺も寝っかなぁ」 「一護、おまえ、いやらしいことを考えてないか」 「ハッ、誰がおまえみたいな婆なんか」 「ば、、ば・・貴様〜〜っ!!」 人気のない一本道。 闇の中に満月が綺麗に咲いていた。 もちろん後日「やっぱあの二人ってデキてんだって〜」 という噂が広まったのは言うまでもない。 |