「うへ〜全身濡れちまったな!」 「はい、桃先輩タオル」 自転車に乗ってる最中に土砂降りなんて、すごい運が悪いと思う。 前も真っ白になるくらい振り出した雨は、とても冷たくてこのままでいたら芯から冷えそうなほど。 ようやく家に着いて桃先輩もひとまず雨宿り、放ったタオルで頭をがしがしと拭く。 「母さん、もう1枚バスタオル!」 「洗濯しちゃって今ないのよ、代わりの探すからそれで拭いて待ってて」 姿が見えず、遠くからそんな声が聞こえた。 「ほら、おまえも拭け」 そう言いながら桃先輩がバスタオルで雑に俺の頭を拭く。 タオルで目の前を隠されて、洗濯機の中にでも入れられたようなめまいがして、頭をマッサージされる。 「ったいっすよ!」 「ほーら出来上がり」 勢いよく拭かれたおかげで大分乾いてきたけど、その代わりすごい髪になってる。 その俺の姿を見て桃先輩はふきだして笑った。 「かわいいぜ越前、幼さが増したな」 笑ってる桃先輩からは水がまだポタポタ垂れていて、脱がないままの学ランもぐっしょりで、 桃先輩は笑いながら豪快にくしゃみをした。 「桃先輩は馬鹿さが増すから早く拭いたら?」 「それを言うなら水も滴るいいオトコだろ♪」 「一文字もあってないんだけど」 肩にかけたバスタオルを桃先輩の頭にかけてやる。 悔しいけどこの身長差じゃ頭をかき回してやれない。 「リョーマ、あったからこれ使いなさい」 母さんが探してきたタオルを受け取ると、桃先輩がすいませんと笑いながら頭を下げた。 いつまでも玄関で体を拭いているわけにもいかず、靴下を脱いで家へあがる。 「桃城君、これでよかったら着ていて。その格好じゃ風邪引くから」 母さんが桃先輩に差し出した、それは親父の着流し。 確かに俺の服が桃先輩に合うわけないし、体格が合うのは親父だけだけど、 俺には親父のものを桃先輩が着るのが嫌だった。 それなのに母さんときたらにこにこしちゃってさ! 「あ、すいません。そんじゃお借りしまっす」 桃先輩も素直にそれを受け取るし。 「越前も着替えて来いよ、おまえも風邪引くぞ」 乾きかけの頭をぽんぽんされて、部屋に戻って服に着替え始める。桃先輩も隣で着替えを始める。 こうゆうのって初めて着たぜ、って言いながらだったけど、 それに着替える早業は俺がTシャツに着替えるよりも早かった。 「へぇ、結構着心地いいなこれ」 髪もまだしっとり濡れていて、いつもより髪も垂れていて、 なんだか旅館の風呂上りみたいだ。 「いい男だろ」 得意げに笑う桃先輩はいつもより少し大人っぽくて、 そのせいで少しずつ鼓動が早くなっていくのがわかった。 でも、いつも親父が着ているものにトキメキを感じてしまったのが、かなりの不覚。 「越前感想は?感想」 「・・・っない・・の・」 「ん、聞こえねぇよ」 「似合ってんじゃないの!!」 怒鳴るように出した声はさらに顔を赤くさせ、桃先輩の笑顔を誘った。 肩をぎゅっと抱かれて、額にちゅっとキスをされた。 「くすぐったいってば」 恥ずかしさと一緒になって顔を背けようとすれば、強制的に大きな手で自分の方へと向けさせる。 目が合った瞬間それだけで金縛りにあって、そうすれば抵抗するすべもなく唇を奪われる。 そんな瞳で一瞬でも見つめられてしまったら、俺はもうキスを受け入れるしかなくなってしまう。 桃先輩はホントにずるい・・。 「雨、止んだんだな」 金縛りが解けて、まぶしいと思っていた方に目を向けると、 色鮮やかな虹がやわらかい雲と一緒に、橋のように青空へとかかっている。 「あんな一瞬の土砂降りに当たっちまうなんて、とんだ災難だよなぁ」 「・・そうでもないけど」 見上げて素直に微笑んで、隣でくっついてる桃先輩の手をぎゅっと握ると、 それに応えるように、俺の体をやさしく抱き寄せた。 桃城は絶対着流し似合います!そんな桃城を見てみたい・・(妄) |