「『桃城リョーマ』ってどう思う?」

突拍子のない発言に俺は思わず吹き出した。
聞きなれないその変な名前は、俺の耳に残ったまま脳裏でリピートを繰り返す。

「いきなりなんなの一体」

真剣な表情をよそに、くくくっと含み笑いをする俺に、
桃先輩はいくらかむくれた。

「なんだよ、笑うなよ」

確かにいちゃいちゃしてる時のノリで、桃先輩が笑いながら『結婚しような♪』って言うこともしばしばあって、
俺はその返事の代わりに抱きついたりしたことも少なくない。
けど、桃先輩が言うほどリアルに考えたことはこれっぽっちもなかったから。

「だってよ、結婚するなら桃城リョーマか越前武になんなきゃいけねーじゃん」
「まぁそりゃあそうだけど」
「越前武なんてなんか変だろ、だからおまえが嫁にこい!」
「・・・なにそれ、エラそう」
「じゃあ、、俺のために一生味噌汁を作ってください!!」
「だって料理なら桃先輩のが得意じゃん」
「だああ!!もう、プロポーズくらい素直に受けろよ!」

えーなに、一応プロポーズだったんだ。
ちなみに味噌汁を一生・・っていつの時代の人間なの。
でもまぁ、これ以上言っても話が進まないから言わないことにするけど。

「つまりはあれなんだろ、おまえ」
「なに」
「俺と結婚したくないんだろ」
「別にそんなこと言ってないじゃん」
「じゃあなんだよ」
「・・・なんで桃先輩は名前にこだわるの」

名前なんて関係ないじゃん。
だって俺は俺で桃先輩は桃先輩でしょ。
名前なんて、その人を全部表現するにはあまりにも短い言葉で、

「名前なんてどうでもいいじゃん。俺は苗字が桃城になろうと一生桃先輩って呼び続けるよ。」

でも“桃先輩”は俺が初めて呼んだあなたの名前だから、
だから、それは大切にしたい。

「どうでもよくねぇって。名前って大事なんだぞ」
「どうでもいいよ。俺は桃先輩と結婚できればそれで・・」



はっ・・・
ちょっと、何言ってんの俺・・・!!

「・・・・・・・・・・・・・・・へぇ?」

頬杖ついた桃先輩が目を細める。
ちょっと・・・そんないい顔しないでよ・・
ちくちくとつつかれるような視線。
うっ・・なんだかこれって、逃げられない状況。
そっぽを向く?「だったらなんなの!」って怒り返す?
ううん、そんなことしたってこの人にはダメージを与えられない。
そんな俺は、もじもじしながら押し黙るしかなくて。
おどおどしている俺に桃先輩は近寄って、小さくキスをする。

「・・絶対幸せにするからな」

やさしい声でそんなことを言われたら、どうやって毒づこうか考えていたはずなのに、
途端鼓動が早くなって、毒気を抜かれてしまう。
包んできた腕と桃先輩の匂いと心をうずかせる甘い声。

「約束」

腕の中でぽそっと呟く。
すがるように背中に腕を回す。
そしてあなたの声を待つ。

「おう、もちろん」

それが誓いのように振ってくるキス。
なんだかいつもと違う味がしたような気がした。
とろけそうな笑顔になりそうで、まだ桃先輩の体に顔を埋めた。



「それじゃこのまま突入ってことでv」

体重をかけて押し倒されそうになったところで、とっさに手で自分の体を支える。
あれ、っと疑問符を浮かべる桃先輩の表情。
薄目になって、

「調子にのんな」

そういって俺は、めいいっぱい笑顔の桃先輩の鼻をつまんでやった。


















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