授業中、ひじを突いてペンを持って、目の前のまっさらなノートを見つめる。 定間隔に引かれた薄い線の上に、何気なく文字を書き連ねてみる。 も・も・し・ろ・た・け・し・・・。 はぁ、とため息をつく。 くるくるとペンを回しながら、もう一回。 今度は漢字で。 ・・・桃城武・・・。 次はカタカナで。 モ・モ・シ・ロ・タ・ケ・シ・・・。 次は・・・俺だけが呼ぶ呼び名で。 ・・・桃先輩。 文字を見つめて、ため息をもうひとつ。 なんで好きになっちゃったのかなぁ。 それに・・・ いつ好きになったんだっけ・・・。 考え始めると浮かんでくるのは、答えではなく、桃先輩の笑った顔ばっかり。 なんでこんなにぽんぽん桃先輩の顔ばかり出てくるのだろう。 いつ好きになったのか、いくら考えても、思い出せない。 この問題は解決できそうもない。 もしかしたら、今やってる数学の公式よりも 数段難しいかもしれない。 眠気に誘われながら、そんなことを思っていると、 ぼーっと先生が黒板に書き始めたチョークの音で、はっと我に返った。 俺、なに書いてんだろう・・・// ノートには桃先輩の名前がたくさん書いてある。 名前を何気に書いてしまったことが急に恥ずかしく思えてきた。 誰も見ていないとわかっていても、妙に焦って、急いで消しゴムを手にとって、名前を消しにかかる。 あれ・・・。 なかなか消えない・・・。 寝ぼけて書いたせいなのか、筆圧が濃くなってしまったようだ。 色は消えても、へこんでしまった跡は消えない。 消えない筆跡を指でなぞって思い浮かべる。 桃先輩今なにやってんのかな・・・。 ・・・。 これじゃ俺、なんか桃先輩のこと大好きみたいじゃん。 ・・・好きだけどさ。 複雑な思いに狩られながらも、俺はあと10分でなり始めるであろう チャイムの音を心待ちにしていた。 --------------------------------------------------------- □消えない想いとはこのこと(笑) |