少し不機嫌な面持ちの啓吾が水色をつんつんと引っ張る。
クラスは騒がしいお昼の時間。

「水色、今日の昼付き合え」
「どこに」
「それはもちろん、朽木さんの貞操を守るため!奴らをつけるのだ!」
「つけるもなにも、朽木さんもういないけど」
「なにっ!」

啓吾はクラス内を見回し、いつもいるはずの2人がいないことを確認すると、
水色を道連れにし、教室を後にした。
二人が向かうのは、入ることを禁じられている屋上。
階段を登りそっと小さく扉を開ける。その隙間から涼しい風が入り込んできた。
そして、青い空と雲をバックに、探していたお目当ての人物を発見する。

「くっそう、一護のやつやっぱりここに・・!!」
「へぇ、最近お昼のときいないなと思ったらここにいたんだ」

水色も興味津々に隙間から外の様子を伺う。
二人は気づかれないように息を潜め、
お互い向かい合って弁当を食べようとしている二人の姿を見ていた。



「また玉子焼きか」
「文句言うな、柚子と違って俺はレパートリー少ねぇんだよ!」

弁当の箱を開けるなり、ルキアがため息をついた。
作る時間も少なく、家族にばれないようにもう一つ弁当を作ることは一護にとって至難の業だ。
駆使して作ってつめてきたおかずは昨日と同じ玉子焼き。
そんな命がけの弁当にため息をつかれては文句も言いたくなる。

「別に嫌とは言ってないだろう。おまえの玉子焼きは結構好きだぞ」
「へいへいそうかい」

そっけない返事をしながら、一護はルキアの一言で少しだけ緩みそうになった頬を引き締めた。
ルキアはもぐもぐと口を動かしながら、一護の弁当にちらっと視線を移す。

「あっ、テメ!人のおかず勝手に食うな!」
「すまぬな、手が勝手に動いてしまって」
「とか言いながらメイン持ってくな!」
「きゃあ〜黒崎君、怖い〜〜」
「・・おまえ、殴るぞ」

一護が握りこぶしを作ると、ルキアは怖いわ〜と猫をかぶり始める。
本気で殴るつもりもなく、一護は再び箸を持ち、弁当を食べ始める。

「おまえいつまでその演技やってるつもりだよ」
「あら、これ結構気に入っているのよ、私にぴったりじゃなくて?」
「気持ち悪いからヤメロ」
「貴様、気持ち悪いとはなんだ!失敬な」
「おまえはそのほうが合ってるよ」

一護が落としたようにふと笑うと、とたんルキアがどうゆう意味だと眉間にしわを寄せる。
それを見て一護が長い人差し指をルキアの眉間に押し当てる。

「んな顔してっと、そうゆう顔になるぞ」

ぴんと弾いて指を離すと、痛いとルキアが呟いた。
押し当てられたところを撫でながら、一護を見上げると、
笑ってはいないが、やわらかな表情でルキア見つめた。



「・・・帰ろうか、水色」

ため息をつき、啓吾は扉の隙間から目を背けた。
水色は変わらず二人を観察しながら、もうちょっとと告げた。

「そのうち、見てればキスとかするかもよ」
「キス!?キスってなんだ!無理だ、耐えらんねぇ、耐えらんねぇよ、俺はそんなの!!」
「キスどころか、ここで始めちゃったりして」
「は、始める!?始めるってなんだ!早食い大会でもすんのか!!」

精一杯全力の呆けをかましても、啓吾は一人虚しくなるだけだ。
水色も、これだけ騒げばそろそろ見つかると察知し、啓吾の口を両手でふさいだ。



「なぁ、なんか今入り口の方騒がしくなかったか」
「そうか?」

一護が振り向くと、閉めたはずの扉がうっすらと開いているのが見えた。
しかしそれは、少し強めに吹いた風によってすぐに閉まってしまった。
ルキアは扉の閉まり直前、あ・・!という誰かの声を聞いたような気がした。

「風だろ風。あ、ルキア」

呼ばれてルキアが振り向くと、くいくいと人差し指で招かれた。
一護のほうへ少し近づくと、その手が顔へ近づいてきて、親指がルキアの口の端をぬぐった。

「ついてんぞ」

指をペロっと舐めると、口の中に甘辛い味が広がる。
とたん一護の眉間のしわが増えた。

「おまえ、俺のエビチリいつの間に食ったんだよ」
「あら、気づかなかったの。黒崎君、ちょっと鈍いんじゃなくて?」

口に手を当ててお上品に微笑むルキア。
満足そうなルキアの笑みを見ながら一護は、明日弁当を食べるときは、
自分の弁当をしっかり守りながら食べなくてはと、空になった弁当箱を見ながら決心をした。












キスとか恋人とかじゃない関係のイチルキが好きです。
でも結構バカップルだったりします。
お題の飲食禁止には内容的にちょっと遠かったかも・・(苦)



















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