雨の強い日だった。
ふと夜中に目が覚めてしまって、暗い部屋に染み入る音だった。
となりにある箱の中で、リョーマのすぅすぅという寝息が聞こえる。
リョーマがうちに来たての頃は、こんな穏やかではすまなかった。
今だから思い出話のようにふり返ることができるだけであって、
きっとまだリョーマの心の傷は消えきってはいないのだろう。







「桃先輩、雨が来る・・」

リョーマがこの家に来て1週間。
夜になるといつもそう言って、俺から離れようとしなかった。
リョーマは雨を極端に嫌っていた。

「一緒に寝るか?」

毎晩毎晩、俺はそうリョーマに返し、ベットのスペースを空けていた。
もちろん、雨なんて降らない。
リョーマもそれはわかっていただろうし、俺もわかっていた。
でも、リョーマは毎日そう言い続け、俺も同じ答えを繰り返した。

正直この行為を毎日続けるにはきつかった。
となりにネコが寝てるってだけで、寝相が豪快な俺は、
好きなようにベットを独占することができなかったし、
毎日の毛のついたベットの掃除が大変だった。
でも、毎日ベットの毛を掃除する俺を見て、リョーマも心を痛めたような表情をしていた。
猫にも性格はあるけど、リョーマはやさしい子なんだなって、目を見ればすぐにわかった。

今日もリョーマは同じことを言い続けた。
俺も同じ返事を返した。

「桃先輩、雨が来る・・」
「あぁ、そうだな」

しかし、雨は本当に降った。
窓をつたって、空気をつたって、冷たい雨が降り注いだ。

「桃・・先輩・・」
「リョーマ。大丈夫か」

いつもは頭をなでてやればコロっと寝てしまうリョーマが、
俺の服をつかんで寒そうに震えている。
いつもは雨が降るといい続けつつも、すぐ寝入ってしまうもんだから、
雨なんか怖くないんじゃないかと半ば疑っていたが、
それは大きな間違いだったみたいだ。
だってリョーマはこんなにも震えている。
俺は震えるリョーマを少しでも安心させようと体をさすり、抱きしめた。

こいつはどれだけの間、冷たい雨を浴びてきたんだろう。
親も兄弟もいないで、飼い主にも捨てられて、せまい冷たいダンボール箱の中で、
どれだけの時間を独りで過ごしたんだろう。
この小さい命は、どれだけの辛い経験してきたのだろう。
それを思うと、思わず自分にも涙がうっすらと浮かぶ。
強く強くリョーマを抱きしめながら、何故か無性にごめんと謝りたくなる。
そして、それと同時に、俺がずっと守ってやると心に決めた。














ザァーーーー。
思いにふけっていた俺は、うるさいくらいの音で我に返った。
どうやら雨は、更に強さを増してきたようだ。

そうだ、リョーマは・・!!
急に不安が押し寄せ、箱の中で眠っているリョーマを見やる。
暗闇の中、リョーマは相変わらずすぅすぅと寝息を立てている。
ほっと胸をなでおろし、深く布団をかぶりなおす。

こんなに穏やかなリョーマはあのときは想像できなかった。
最近じゃ、もう立派にひとりで眠ることができるようになった。
表情も明るくなったし、やわらかく笑うようにもなった。
でも、あの怯えた目と、寂しいと訴え続ける泣き声を俺は今でも忘れてない。
リョーマの心の傷はまだ治っていない。
どんなにわかろうと努力しても、あいつの痛みはあいつにしかわからない。
これからもリョーマは心の傷と葛藤しながら生きていかなければならないんだ。

だから、俺が・・俺だからこそリョーマにしてやれること。
あいつが少しでも多くの時間笑顔でいられるように、幸せになれるように、
そしてあいつのために、俺の時間を少しでもリョーマにわけてやること。
少しでも長く一緒に居てやること。

もうリョーマはひとりじゃない。
俺がずっと一緒にいる。
俺はリョーマの穏やかな寝顔をもう一度見て、深く心に誓った。










久々猫桃リョ。そしてダークでした。
猫リョは悲しい過去を背負っている子猫です。
大事にしてあげてください。










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