「リョーマ、掃除機かけちゃうからちょっと外出てて」 「今宿題してんだけど」 「じゃあ自分でかける?」 モーター音のうるさいそれを俺に突き出され、俺は仕方なく、教科書とノートを持って部屋を後にした。 せっかくやる気になった気分をそがれたみたいで俺はむすっとしながら、 居間でのんきにテレビを見ている親父の隣に座った。 掃除が終わったらここからすぐに出て行こう。 カリカリと鉛筆の音と、がやがやとテレビが俺の勉強の邪魔をする。 「なんだ、勉強してんのか、珍しい」 CMに入って暇になった途端、親父の暇つぶしの対象は俺になる。 俺は無視して解きかかった問題に集中する。 「ほーどれどれ」 俺の背後に回りこんで、鉛筆を走らせる俺のノートをまじまじと見る。 どうせ見たってわかんないくせに。CMがあけたにも関わらず、親父は俺の背後から消えない。 「へぇ、結構できてんじゃんか」 「当然でしょ、これくらい」 「あんだけ数字が苦手のおまえがか?」 努力して克服したんだよ、と強く言いたいところだけど、 実は数字に強い桃先輩に教えてもらった成果だった。 普段はあんな馬鹿みたいだけど、隠れた素質なのか、 桃先輩の勉強の教え方はわかりやすくて解きやすい。 ヒントの出し方とか、応用問題の解き方とか、得意な教科だって理由もあるだろうけど、 マンツーマンなだけに、わからないところもビシバシ解決していく。 そんな意外性を見つけて、ちょっと見直した、というかちょっと惚れ直した・・。 「もう、親父邪魔」 さっさと終わらして、桃先輩に電話でもしようと、 俺はひとまず両肩にのしかかる腕を払った。 「なんだ、おまえまたあいつと風呂入ったのか」 アチーアチーと耳を掻きながら、親父が目を細めた。 「なんでって顔してんなリョーマ。まだまだだな。 うちにはそんな甘い香りのシャンプーはねぇんだよ」 頭をがしっとつかまれ、ぐしゃぐしゃにされた。 自分では気づかない桃城家の甘いシャンプーの香りが舞う。 確かにうちではクールシャンプーしか使わないから、 そんな越前家にいきなり甘い香りが漂えば、誰だってすぐに気づくだろう。 でも今日はしょうがなかった。思う存分テニスしてたら、テスト勉強をする計画で、 でもテニスをしたら汗を掻くのは当然で、シャワー浴びるだけでいいって言ったのに、 桃先輩が俺の頭をぬらすなり、いきなりシャンプーで泡だらけにするから・・。 前もこんなことがあったから、少し怒ってやったけど、 その時は家に帰っても誰も何も言わなかったのに。 「今日は倫子にも奈々子ちゃんにも、たーっぷりからかってもらえよ〜」 豪快に笑う親父が、俺の背中を強く叩いた。 居間に甘い桃の香りを漂わせながら、俺はすぐに電話で 「一緒にお風呂禁止」を言い渡すことを決めた。 ♪だかだから、ぼ・く、桃先輩と〜お風呂〜に〜入んない! |