「よっ!また会ったな」
「っす・・・」

先客がいた。
まだ部活で数回しか会った事がないけれど、変わった苗字だったから覚えてる。
桃城 武。

大の字に寝転んでいた体を反転させて、入り口に立っている俺を見てる。
今日で2回目。
前にも弁当を食べ終わって、屋上に向かったら、この人は同じ場所で寝ていた。
一目で見渡せるこの広くもない場所には、この人以外、誰の姿もなかった。

「いけねぇなぁ〜ここって立ち入り禁止なんだぜ?」

なにが楽しいんだか、キシシと笑いながら、いいから来いよと、俺を手招きする。
言ってることと逆なんだけど。

内心また捕まってしまったと思っていた。
前もこうやって捕まって、昼休み中ずっとこの人の話を聞かされていた。
俺は相づちを打ったり、返事をするだけであまり話はしなかった。

「おまえ、何しに来たの?」
「避難してきた」
「なにからよ」
「堀尾」
「あー、あいつ煩そうだもんな〜」

人のこと言えないんじゃない・・・と思いながら
寝ているこの人の隣に座って、同じ空を見上げる。

妙な沈黙が続いた。
部活で騒がしい人だとわかっていたら、もっと話かけられると思ったけど、
今日は話すでもなく、寝るでもなく、ただ隣に座って、風を感じていた。

だけど、二人で居る無音の時間に違和感を感じることはなかった。
こうゆう感じは嫌いじゃない。

そういえば・・・この人こそ、なにしきたんだろ。
別に興味なんてないけど、少し気になったから、きいてみた。

「アンタはなんでここにいるの」
「天気いいから、昼寝しに」
「ふーん」
「・・・なぁんて言うと思ったか」
「はぁ?」

そしてまた、くくっと笑う。
この人・・・わかんない。

「な、越前、学校楽しい?」
「・・・別に。まだ入ったばっかりだし」
「そか。でもテニス部はおもしれ〜ぞー!」

価値観とか性格が違うとかそうゆうことなのかもしれないけど、
この人はほんとに、なんでも楽しそうに話す。
別にテニスが楽しくないなんて思ってないけど、俺はあんまり顔に出さないから
ここまで表情に出す人は、なんだか変わってるように思えた。

「テニスが面白いのは知ってる」
「ま、そりゃそうだろな!だから入ったんだろーし」

ぐーっと背伸びをして、あくびをする。
その大きなあくびが俺にも移って、両手を口にあてる。
陽の光と温かい風が中和して、体に染みこんでは眠気を誘う。

時計は5分前を指す。

「・・・おまえってさ」「・・・アンタってさ」

え。
同時?

「なんだよ、先言っていいぜ」
「先輩が先でいいっす」

ゆずられれば、ゆずりたくなるもんで、
後輩という立場を利用して、一歩ひいてみた。

「おまえって、変わってるよな」

そんなまっさらな笑顔で言われても・・・
褒め言葉でもないのに、やっぱりこの人は変わってる。

「アンタに言われたくないんだけど」
「ほら、それ!」
「?」
「俺のことアンタって呼んだのおまえが初めて!」
「だって他になんて呼ぶの?」
「だから、この前も桃ちゃん先輩でいいって言ったろ」
「ヤダ」
「・・・やっぱおまえ変わってるわ〜」

不思議なものを見るような目で俺を見つめる。

「1年なのに堂々としてるし、あんまり敬語使わねぇし。テニス上手いし。
 あ、俺は別に敬語使おうが使わまいが気にしねぇけどな。
 ま、いいや。で、おまえはなんて言おうとしたんだ」
「・・・よく喋るっすね。」
「そうか?普通だろ」
「俺も変わってるって言おうとしたんすよ」
「・・・・・・誰が?」
「アンタが。他に誰がいるの」
「俺がぁっ!?」
「・・・っ、驚きすぎ」
「ああっ!!」
「なにっ!」
「今笑っただろ」
「笑ってない」
「いや。俺はみた!絶対笑った!」
「笑ってないってば」
「初めて見たぜ〜おまえの笑ったとこ」
「・・・しつこいってば」

少しだけ含み笑いしただけなのに、それをこの人は見逃さない。
テニス以外に洞察力使わないでいいのに。
だって、あまりにも変な声出して驚いたりするから

「な。実は俺達結構似てると思わねぇ?」
「全っ然」
「ひっでぇ・・・」

くくっ。変な顔。
でも今度は完全に顔には出さなかったぞ。
と、少し満足していたら・・・
キーンコーンカーンコーン、聞きなれたチャイムが鳴る。

そして今一瞬、俺の心によぎった気持ち。
・・・まだここに居たかったな・・・
そんなことを一瞬でも思ったことが、なんだか不覚だった。

「やっべ!今の本鈴だ!越前、走るぞ!」
「ハイハイ」

しぶしぶ立ち上がって前を走る姿のあとを追いながら、教室へと走る。
階段を下りれば、1年と2年の校舎も教室も違うから

「じゃ、越前また部活でな」
「ッス」

笑顔でそう告げられて、先輩の姿が消えた。
俺はすぐ近くの、自分の教室にたどり着く。
決められた席に座る。まだ見慣れない教室、先生、クラスメート。
落ち着かない、騒がしい空気。
さっきとはまるで違う世界。

授業が始まり、辺りが静かになると、
ひじを付いて、さっきの昼休みの不思議なひと時を思い出す。
あの人のことを思い出す。
テニス以外で、時間が過ぎるのを早く感じた瞬間・・・




それから・・・登下校を共にし、テニスをしたり、デートをしたりするようになるのは
もう少しだけ先の話。













「よ!越前、また会ったな」
そして俺は、また明日もあの人のいる場所へと急ぐ。













  










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