ただの先輩から、桃先輩と呼ぶようになって、 もうそれが俺の口癖のようになってきた今日この頃。 「な、越前。俺とおまえんちってって同じ方向なの知ってた?」 「へぇ、そうなんだ」 「今日さ、一緒に帰ってみねぇ?」 一緒に・・・? でも、桃先輩は自転車通学で、俺は徒歩通学なのに。 え・・・もしかして。 「ほら、早く乗れって」 「だって、そこって荷物置きじゃん」 「荷物みたいなもんだろ」 誰が荷物だよ、って膨れた俺の頭を、桃先輩がグリグリなでた。 「ほーら、早く乗んねぇと置いてっちまうぞ」 桃先輩がそうやって俺をせかすもんだから、俺は仕方なく、 お粗末な後部座席をまたいだ。 「な、おまえって2ケツ初めて?」 「うん。だってここって人が乗るとこじゃないでしょ」 「でもよー今時荷物くくりつけてるヤツも珍しいぜ〜?」 その場面を想像したのか、桃先輩は笑いながら自転車を発進させた。 自転車の後ろというものは、車に乗るほど快適なものではなかった。 普通の道だってのに揺れるわ、お尻は痛いわ、落ちそうになるわで、 ヒヤヒヤしながら自転車につかまっていた。 まぁ、歩くよりは早いからいいんだけど。 「越前、危ねぇからこっちつかまってろ」 信号で丁度止まったと思ったら、 桃先輩は俺の腕を自分の腰に巻きつけた。 「これでよし」 「これ・・暑いんすけど」 「怪我してもいいなら離してもいいぞ?」 くそぅ・・・。 こぐほうもだけど、俺は二人乗りの初心者だから、ここは仕方なく桃先輩のいうことを聞いた。 本当に怪我したらシャレんなんないし。 「それじゃぁ、今日越前は祝☆初2ケツなわけだな」 「まぁ、そんなところ」 「ははっ。越前の初めて奪っちまったな〜v」 ・・・変な喜び方。 信号が青になってまた自転車は走り出す。 たまに、ガタンと揺れて体が浮くけど、桃先輩にしっかりつかまってるから全然平気。 頬や髪をなでる風は気持ちいいし、すいすいと人を追い抜いていくスピード感が心地よかった。 それに・・・。 桃先輩の背中ってこんなに大きいんだって、、はじめて気づいた。 こうやってつかまっていた腕を少しだけ緩めると、桃先輩の背中がよく見えるんだ。 そうすると、桃先輩の背中がちょうど影になって、強い日差しをさえぎってくれてた。 ・・・もしかしたら、車なんかより快適なのかも。 そう思いながら、桃先輩の背中を見つめた。 「越前?着いたぞ」 「ん・・あぁ・・・・」 「なんだおまえ、寝てたのかよ」 「ん、そうかも」 「そうかもって、危ねぇから寝んなよなぁ」 心地よかったから、つい寝ちゃったみたい。 「そんじゃ、また明日な」 「ういっす」 ひらひらと手をふって、ちょっと眠い目をこする。 その間に桃先輩はもう自転車をこぎだしていて、 「桃先輩!」 「ん、どした」 あ・・・思わず引き止めてしまった。 どうしよう、でも・・・。 「あの、またたまに一緒に帰りません?」 俺がそういった瞬間、桃先輩が一瞬顔をしかめたように見えた。 言った後で気づいたけど、アシに使おうなんてそんな意味にとられてしまったんだろうか。 ・・・確かに楽だけど、本当はそんな理由じゃ・・・ 「おう、いいぜ!」 不安だった俺のココロは、あっという間に桃先輩の笑顔に持っていかれてしまった。 「なんだったら、明日朝迎えにきてやるよ、そんじゃまた明日な!」 『たまに一緒に』って言ったのに、桃先輩はOKするどころか、 明日迎えに来てくれると、あっさり言ったのだ。 俺は小さくなっていく後姿をしばらく見ていた。 桃先輩が見えなくなってから、なんだか急に自分が恥ずかしいことをしているように思えてきた。 ・・・俺、なんであんなこと言っちゃったんだろう。 とっさに引き止めたりなんかして。 なんか、へんなの。 でも、 明日が少し待ち遠しくなった、そんな瞬間だった。 実は微妙に13→10→8と続いています。 そろそろ恋ゴコロが芽生え始めてきました。 でも翌日リョマは結局寝坊します(笑) |