「桃、しばらくこれ持っててくんね」

胸ポケットに手をいれ、友人が申し訳なさそうにそれを差し出した。
小さな箱と100円ライター。

「今から職員室行ってくっからさ」

バレたのか。

「桃が部活終わったらとりに行くから、それまででいいから。頼むっ!」
「しょうがねぇな。早く取りに来いよ?」
「おー!サンキュ桃!」
「おう!たんまり叱られてこいよ〜!」

急いでる様子の友人に笑って手を振ってやると、

「余計なお世話だ」

と、走って廊下を消えていった。
友人が去り、我に返る。
学校内だということに気づき、周りを見渡し、
持っていたタバコの箱を慣れない手つきで胸ポケットにしまった。
あぶねぇ、あぶねぇ。とりあえず、ポケットに入れときゃなんてことないよな。








「桃先輩、ハラ減った」
「おまえ、俺に言えば何でも解決すると思ってんだろ」
「マック」
「金ねーよ」
「ケーチ」
「おまえが食い荒らしたんだろ!」
「桃先輩が負けたのが悪い」
「・・・コノヤロウ」
「オゴりたくないなら勝ってくださいね」
「言いたい放題言いやがって・・・」
「ねーハラ減った〜〜」
「はいはい。さっきも聞いたから」
「なんかないの〜」
「ば、ばか。どこ触ってんだよ」
「桃先輩こそ、なに考えてんの」

俺の前にまわって、ごそごそと俺の胸ポケットに手を入れる。
越前はたまにこうゆうことをするが、それはもちろん誘っているわけではなく、
常に俺のポケットに入ってるカロリーメイトを探してるだけ。
わかってやってるんだか、こうゆうことをされると正直ツラいんですけど・・・

「みっけ」

ごそごそと詮索して、越前がポケットから箱を取り出した拍子に、別のものが落ちた。
・・・忘れてた。
越前は道に落ちた別の小さな箱を拾い、俺に突き出した。

「・・・桃先輩」
「なんでしょう」
「吸ってんの?」
「んなわけねーだろ」
「ふーん」
「クラスのヤツのを預かってたんだよ。持っててくれって」
「・・・ふーん」
「オマエ、疑ってんだろ」
「別に?」

・・・こ、この目、マジで疑ってやがるっ。
はぁ・・・忘れてた俺も俺だけどよぉ
スポーツやってる人間がこんなの吸ってたら体力落ちるってーの。
それに、以前越前は煙草が嫌いと俺に愚痴ったことがあった。
理由を聞いたら一言、煙草=親父だからだそうだ。
てゆーかなんでとりにこねーんだ!!俺は疑われてるんだぞ!
はぁ・・・忘れてた俺も俺だけどよぉ

「桃先輩、公園行かない?」
「ん、ハラ減ってるんじゃないのか」
「いいから」
「別にいいけど」

この道を曲がってすぐに公園がある。
俺は越前に促されて公園へ入っていった。
自転車を止めていると、越前が手を出して待っていた。

「桃先輩、さっきの貸して」
「どうすんだよ・・・って。おまえまさか」
「俺が吸うわけないじゃん」

越前は俺から受け取った煙草に、慣れない手つきでライターの火をつけた。
煙草からたちあがる煙に、越前が顔をしかめる。
そのしかめっ面のまま、煙草を俺に突きつけた。

「はい、桃先輩」
「俺かよ!」
「他に誰がいんの」
「おまえ、恋人を実験台に使うかぁ普通・・・」
「自惚れすぎ」
「てか、なんで吸わせようとすんだよ」
「桃先輩の吸ってるとこ、ちょっと見てみたいなぁって」
「おまえ煙草嫌いなんじゃねーの」
「嫌いだよ」
「だったらなんでこんな・・・」
「言ったじゃん。ただ吸ってるとこ見てみたいだけだって」

早くとってよ、と自分で付けたにもかかわらず、俺に吸わせようと、引かない越前。
しかし、煙草に対する好奇心も少し出てきて、少し考えてごくりとつばを飲む。
越前からそれを受け取ると、思い切って一息吸い込んだ。

「ゲホッ」

ニガっ!!けむっ!!
煙草を自分から遠ざけて咳き込んだ。
咳き込みながら越前に煙草を突き出す。

「無理無理ッ。無理だわコレ」
「桃先輩ダサーイ」
「おまえが吸えっつったんだろーおまえも吸え!」
「ちょっ、煙いってば・・・けほっ」
「ほーら、おまえだって全然だめじゃん」
「うっさいな。嫌いだって言ったでしょ」
「あーもうこんなん絶っ対ー吸わねぇ!」
「あー、いいの?そんなこと言って」
「だから、俺は元から吸ってねぇって!」
「そうじゃなくて」
「なんだよ」
「普通に吸える様になったらカッコイイって言ってあげようと思ったのに」
「・・・マジ?」
「うっそ」

イタズラを覚えた子どものように越前が笑った。
痛くない程度に越前の頭をぐりぐりと撫でた。
苦しいとか痛いだとか言いながらも、笑いながら俺たちはじゃれあっていた。




そして、いつのまにか少しだけ日が傾いた。

「そろそろ帰っか」
「そうっすね」

今度こそ、寄り道せず越前ん家の玄関に着いた。
辺りが静まり、周りを見回す。
いつものように深いキスをしようと、越前の体を引き寄せる。
が、唇が軽く触れ合った途端に、越前に体を突き飛ばされた。

「な、なんだよ」
「・・・煙草の味する」
「ちょっと我慢しろって」
「・・・桃先輩って本当に今まで吸ってなかったんっすね」
「おまえ、結局疑ってたんじゃねーか!」
「ちょっとだけ」
「ったく、吸ってねぇに決まってんだろ〜」
「そうだよね、吸ってたら俺が先に気づくもんね」
「そうだな」

それから上手くさっきの雰囲気に戻すことができずに、思う存分キスもできないまま越前と別れた。
いつもな何げなくしてることなのに、それができないだけでどことなく憂鬱な気分だった。

「やっぱ、もう吸わねぇ」

そう俺は固く決心した。








次の日、俺が越前の家へ向かっていると、珍しく越前が既に外に出て待っていた。

「おはよ、桃先輩」
「おう、おはよ。今日は珍しく早いな」

そう言って笑いかけた途端、顔が近づいて、やわらかいキスをされた。
言おうとしていた言葉も忘れ、今の頭の中は目の前のキスでいっぱいだった。
それはどんどん深いものになっていく。

「ん・・・っ」

昨日のキスに納得が行かなかったのは俺だけじゃないらしい。

「今度はちゃんと、桃先輩の味がする」

お得意の顔で、にやっと笑うと、照れ隠しに顔を隠すように抱きついてきた。

「こいつ・・・かわいいことしやがって」
「これから、おはようのキスも追加する?」
「いいな、それ。だけどよ・・・その場合、朝っぱらから授業どころじゃなさそう、俺」
「・・・俺も」

少しだけ顔を赤くして俯いて。
・・・それも大分効くんですけど・・・
ぎゅっと抱きしめた後、今度は俺からキスしてやろうと、少しだけ体を離すと
それをさせまいと越前がまた体をくっつけてくる。

「越前、俺にもさせろって」
「やだ・・・っ」

しがみついて俺から離れようとしない。
この様子だと、まだ顔が赤いからダメってか?
ったく、なんだって、こんなかわいいんだよ、コイツ・・・
このまま、ずっとこうしていたいが、残念なことにここは通学路。
もう少しでがやがやと騒がしい通りになる。
遠くで話し声が聞こえたかと思うと、急いで離れて自転車に飛び乗った。

「おっしゃー!!今日も飛ばしていくぜー!」
「桃先輩張り切りすぎ」
「続きはまたあとで、なv」
「うん・・・」







上機嫌で、今日も遅刻ギリギリで教室に着いた。
席についた途端、友人が走ってきて小声で言った。

「桃!昨日はゴメンな。思ったより説教延びちまってさ・・・ってなんか機嫌いいな?」
「まぁな〜ほらコレ」
「おーサンキュ!」

友人に例の箱とライターを返すと、気になったのか中身を確認しだした。

「桃、おまえ吸ったのか?」
「悪ぃな。1本もらったぜ」
「いいって。それより、あれ結構うまかっただろ!」
「いやぁ、最悪まずかったけどさ〜♪」
「?????」

友人は不思議そうな顔して、うまかったから機嫌がいいんじゃないのか?と尋ねた。
だけど、この後煙草なんかよりうまいもんが待ってるんだ、なんて、勿体無くて
教えてやれねぇなぁ、やれねぇよ。










中学生なんで、かわいらしくゴホゴホ咳き込ませてみました。
でも、二人とも煙草が似合う。









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