部活後、

「はい、コレ。」

笑顔で菊丸先輩に渡された細長い長い紙を見て首をかしげる。
これは何かと聞く前に、菊丸先輩は忙しそうに他の人に紙を配りに行ってしまった。
よく見たら桃先輩も同じように紙を配っていた。

なんだろこれ・・。

折り紙を半分に切ったくらいのその紙を、ぴらぴら遊びながら周りを見渡すと、
周りの部員たちも色とりどりの紙を持っている。
ざわついたコート内で、部員たちは楽しそうに何かを話している。
桃先輩はまだ忙しそうに働いてるから、俺は暇でしょうがない。



「うわぁあ!!おチビなにやってんだよ〜〜!」

紙を配り終えたらしく、俺の様子を見ていた菊丸先輩が、俺を見るなり飛んできた。
あ・・・
手元を見ると、無意識に小さくびりびりと破っていた、今や細々の紙切れ。

「おチビの馬鹿〜〜!きっかり人数分しかないんだぞ〜!」
「だから、なんなんすかこれ」
「ありゃりゃ、おチビ知らないのか、短冊だよ!た・ん・ざ・く」

たんざく・・?

「7月7日は七夕って言って、短冊にお願いごとを書いて笹につるすと願いが叶うんだよ!」
「・・・・・。へぇ。」
「・・なんだよ、そのいかにも『嘘くさ・・』って顔は」
「別に」
「でもおチビはもう短冊ないから書けないぞ〜」
「いいっすよ、別になくたって」
「きぃ〜〜〜可愛くない〜〜〜!!」

そう言いながら後ろからぎりぎりと首に抱きつかれる。
く、苦しいんだけど・・・。

「英二先輩〜、配り終わりましたよー・・って何してんすか」
「あ、桃ちんお疲れ!あんね、おチビが短冊だって知らないでびりびりに破いちゃったんだよ〜」
「はぁ?なにやってんだよ、越前」
「だって、なんなのかわからなかったんだもん」
「いっすよ、英二先輩。俺こいつと一緒に書きますから」
「お、さすが桃、面倒見いい〜♪んじゃ、俺も書いてくるから」

菊丸先輩はぴょんと跳んで、行ってしまった。
あたりを見回してみると、部員たちが楽しそうに、短冊に何かを書いている。
その光景を見ていると、俺もやっぱりちょっとは参加してみたいかも、という気分になってくる。

「おまえ、電車の切符とかすぐぐちゃぐちゃにしちゃうタイプだろ」
「は?」
「いや、別に」

桃先輩の持っている短冊はきれいなオレンジ色。その紙には糸がついていて、
吊るすことができるようになっている。その桃先輩の短冊を見て、
破らなきゃよかったな、と今更ながら後悔する。

「んで、なにがいいよ、願い事」
「え、」
「だって2人で1枚しかないんだぞ、同じ願い事にするっきゃないだろうが」
「桃先輩は何がいいの」
「フフ・・エビカツセット1年分」
「却下」

ったく、何がエビカツだよ、毎日飽きもせず食べてるくせに。

「んだとー!じゃあおまえ言ってみろよ、全国NO.1か?」
「それは自分で叶えるからいい」
「ははっ!越前ならそういうと思った。あ〜マジ何にしような〜」
「・・健康第一?」
「おっさんくせ〜〜!」
「うるさい!」

もう、じゃあ何だったらいいの。別に俺、お願いなんて・・。

日本に来てちょっと不安もあったけど、今はこうして気兼ねなく先輩と話したり、
この人といると時間が経つのがあっという間って思える人がいる。
今までそんな人と出会ったことなんてなかったから、今この瞬間があるだけでも、俺は―――
―――十分にしあわせだから・・・

「じゃあさ、『ずっと仲良しでいられますように』?」

え・・

「だってよ、二人に共通っつったらこんな感じだろ?」

そうだけど。
俺が桃先輩と共通する願い事と言ったら、一瞬、俺もそれを想像していたから。

「なんか意味深っすけどね」
「まぁ・・そうだな。イヤか?」
「別に、いやじゃない」
「だろ。じゃ書くぞ」

ペンで一つ一つ書かれていく字を見ながら、思う。

「・・・桃先輩、字ヘタ」
「うっせ!!おまえも名前書けよ!」

渡されたペンで桃先輩の名前の隣に自分の名前を書いて。




『ずっと仲良しでいられますように   桃城武・越前リョーマ』




出来上がった短冊を改めて見ると、なんだか、桃先輩ともっと仲良くなれた気がして、
少し恥ずかしかった。

「一番てっぺんに付けてやっからな!」

そう言って桃先輩は得意のジャンプをして、誰よりも高いところに俺たちの短冊をなびかせた。
見上げた空に綺麗な星もがくさん出ているせいなのか、証拠はないはずなのに、
俺にはこの願いが、きっと叶うような気がしていた。
2人で1つの謙虚なお願いだけど、世界で一番ぜいたくなお願い。

どうか叶いますように。

きらきらと輝く夜空の星を見つめながら、俺は生まれて初めて
星に願いを込めた。













遅れましたが、七夕小説でござい。
二人で1つのお願いです。えーとたぶん、これは確実に付き合う前です。
もう既にお互いスキスキなんですけどね。
翌日は「え、あいつらデキてんの?」って噂が流れます。



















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