「桃先輩、もう部活始まってるっぽいよ」
「そうだな」

屋上の上からテニスコートを見下ろすと、部長を前にした部員たちが、ぴしっと整列している。
先頭に並ぶレギュラージャージを見ながら、いつも自分がいる場所と、
その隣が空いていることが少しおもしろい。

「桃先輩、部活行く気ないでしょ」
「おうよ!っつか、おまえ一人残してのんきにテニスなんかしてらんねぇよ」
「へぇ、一応悪いって自覚はしてるんだ」
「まぁな」

ふたりでせわしなく練習をはじめた部員たちを見ていると、
自分たちだけ別の世界にいるような気分になる。
それが、ちいさな幸せで少し快感でもある。
まぁ、この腰の痛みは不快そのものでしかないんだけど。

「なぁ、まだ痛ぇ?」
「当たり前でしょ、馬鹿」

悔しいからほっぺたをつねってやる。
どうやら桃先輩は、俺がテニスできる体じゃないってことはわかってるみたいだけど
このエロ親父はほんと力の加減というものを知らない。
桃先輩が俺の手をつかみながら、痛い痛いと言うから、さらにぎゅっとほっぺたをつかんでやった。

「こっちの顔のほうが男前なんじゃない?」

本当に痛そうな桃先輩の歪んだ表情を見て、皮肉を言ってやる。
事後の俺の痛みはこんなもんじゃないんだからね。
やっと手を離すと、桃先輩はほっぺたをいたわるようにさすった。
ざまぁみろと、俺は笑った。

「おまえ本気でつねっただろ」
「うん、もっとやろうか?」
「冗談きついぞ、おまえ」

困ったように苦笑いする表情は結構好き。
だからそれを見て俺が微笑むと、小悪魔みたいだと桃先輩に言われる。

「ねぇ、部長今日一段とイラついてない?」
「そりゃ、俺らがサボってっからだろ」

イラついてる部長には悪いけど、俺たちに言わせればこの光景はやっぱりちょっとおもしろい。
大石先輩はおかあさん蟻みたいにせっせと動いてるし、
菊丸先輩は遠くから見てもぴょんぴょん飛び跳ねててすぐにわかるし、
海堂先輩は走り込みが終わった直後でもピンピンしてる。
腹ばいになってそんな光景を見ていると、桃先輩がごろんと俺の体にぴったりくっついてきた。

「ちょっと、押さないでよ」
「いいだろ、くっつかせろ〜〜」

押したり押し返したり。
意味もないのに笑ったり怒ったり。
こうやってベタベタするのもいちゃいちゃするのも不快どころか、
むしろ快感だって思えるのは、俺が桃先輩を好きだって言う紛れもない証拠だと思う。

「おまえがそっちばっか見てるからだろー」
「ちょっとしか見てないじゃん」
「俺といる時くらい俺の相手しろよ〜」
「さっき嫌ってほど相手したでしょ」
「あぁ!?足りねぇ足りねぇ!全然足りねぇ!」

軽く逆ギレっぽくて、くだらないことでムキになる桃先輩。
ほんと子どもなんだから。かわいい。

「なんだよ、笑うなよ」
「笑ってないよ」
「笑った笑った!ぜってー笑った!」
「はいはい」

実はあんまり隙がない桃先輩も、こうゆう時は本当に俺よりも幼くなる。
しょうがないからコートを見るのをやめにして、桃先輩の腕枕で空を見上げる。
お昼休みから出てる太陽はさらに強さを増し、俺たちを照らす。
さすがに、てっかり晴れた太陽の日差しは暑い。
そんな天気でも今度は俺から。

「なんだ、どうした」

くるりと体の向きを変えて、目の前の桃先輩の体を抱きしめる。

「やっぱりこうやるとさらに暑苦しいね」
「さっきのがよっぽど暑苦しいけどな」
「言えてる」

暑いって自分でも分かってるのに、どうしようもなく桃先輩に触りたくなる瞬間がある。
しかも1回抱きしめてしまうと、なかなか離れられない自分がいる。
俺って桃先輩に飢えてる?飽きるくらい一緒にいるのにね。
頭をなでられると自然とまぶたが重くなる。これは魔法の手。
俺は幸せになると眠たくなるから、たぶん今が一番幸せ。
なにより、幸せ。。

「寝てんのか?」

完全に目が閉じると、桃先輩が耳元でやさしく囁く。
ゆりかごみたいに抱かれるから、自然と目が閉じてしまう。

「そんな無防備に寝てるとキスするぞ」

俺の無言の返答のあとに返ってきたのは、思ったとおりの甘いキス。
その甘さに吸い込まれそう。
目を閉じながら、桃先輩の表情を想像する。
愛しそうに俺を見つめて、大切なたからもののように俺をなでる桃先輩。
口の端をあげて微笑むと、また唇に振ってくるキス。

時間が止まったような錯覚を覚える瞬間。
目を閉じても自然と見える風景。
初めてこころから愛したひと。
しあわせ。


ずっとずっと、俺のそばにいてください。










由希サマのリクエスト「部活サボってラブラブ」でした。
今回はラブラブで和み系を目指してみました。
お互い大好きな部活(テニス)を休んでまでふたりでいたいだなんて、
なんてステキなラブラブっぷりでしょう!リクをいただいた瞬間に萌えた優奈です。
久しぶりのSSになってしまって、ご期待に沿えたか不安ですが、
楽しんでいただければ嬉しいです。











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