想いなんて形にできるもんじゃないし、
チョコレート程度で収まるほどの気持ちでもなかったし、
なにより日本人特有の行事にすんなり入り込むことができなかったから、
俺はチョコレートなんて物を用意してこなかった。

「あ、あの桃城君、これ!!それじゃ!!」
「え、あ・・おい!!」

でも女の子たちは、次々に桃先輩にチョコレートを渡しては逃げていった。
渡しては恥ずかしさに耐えられず逃げていく女の子を見ながら、
逃げる程度の気持ちで、告白なんかよくできるもんだよね。

俺はそんな女の子たちに負けるなんて思ってないし、
チョコレートになんて頼らないって強気でいた自分だったのに、
こんなに切ない気持ちになるのは、桃先輩がチョコを貰ったときに不意に笑顔を見せるからだ。

「桃ちゃん、チョコあげる」
「お、マジ?」
「義理だからね、義理〜」
「そこを強調すんなっての」

どうせ、本命のくせに。
女の子の嬉しそうな顔と丁寧なラッピングを見れば、それが義理じゃないことくらい俺にもわかる。
帰り際に、俺がいる目の前で桃先輩に渡すもんだから、思わず声を出しそうになった。
クラスが同じで仲がいいのか、その子は逃げずに楽しげに桃先輩と会話をしていた。

「サンキューな、・・と言いたい所なんだけどさ、今回は義理でも受け取れねぇんだわ」

え・・・。

「なんでー?桃ちゃんチョコ大好きじゃん」
「悪ぃな。今日は本命にどっさり貰う予定なんだな、コレが」
「え〜なにそれー!初耳だよ」
「それにヤキモチ妬かれっと後が怖いしな」

そう言って相手に気づかれないように、隣にいる俺を肘でつんと突っつく。
馬鹿、バレたらどうすんの。
気づかれないように少し見上げて睨んでやると、
“ほんとのことだろ”って目で俺を見てきた。

「えぇ、誰なの。桃ちゃんの彼女ってー」

気のない振りして、すっごく気になってるみたいな言い方だった。
でも、俺と桃先輩のやりとりには運良く気づいていないみたい。
よかった、とふと息をついた途端、桃先輩に両肩をぐいっと捕まれ、前に押し出された。

「こいつだよ。俺の大切な彼女」

ちょ、ちょっと・・!!!
俺の顔にかあっと血がのぼって、
女の子は呆然とした後、少し笑った。

「プッ。いくら越前君がかわいいからってオトコノコに手出しちゃだめだよ〜〜」
「ははっ!だよなぁ」
「もう〜まったくそんなんだと彼女に逃げられちゃうよ〜」
「そうなんねーように頑張るわ」

俺を後ろから抱きしめた形のまま、桃先輩は女の子ににっこりと笑った。
その様子を見て、女の子は“じゃあ、もう行くね”と一言告げ、
受け取ってもらえなかったキレイな箱を握り締めて、足早に去っていった。

「離してよ」
「お、悪ぃ」

桃先輩の腕から解放されて、小さな背中が走って消えていくのが見えた。

「・・絶対本命だったよ」
「そんなことねぇよ」

桃先輩は自転車にまたがり、行くぞと行った。
なかなか後ろに乗らない俺に、桃先輩が小さく呟いた。

「悪かったな、女よけにみたいに使っちまって。」

俺が怒ってると思ってるのかな。
そりゃ、いきなりあんなことされて、びっくりしたけど、確かに最初はむっとしたけど、
・・・怒るどころか、、実はちょっと嬉しかった。
冗談めかして言った言葉だったけど、
あの時言ってくれた言葉も声も真剣で・・

「別に。怒ってるわけじゃないよ」

俺は桃先輩の後ろに乗って、いつもはしないことをしてみた。
人がいてもかまわないから。
桃先輩の背中に顔を隠して、腕を回してぎゅうッと抱きしめる。
桃先輩、俺全然怒ってないよ?
言葉ではいえない気持ち、これで伝わったかな。
でも、俺は、チョコレートなんて用意していない。

“本命にどっさりもらう予定なんだな〜コレが”

桃先輩はもしかしなくても、俺からのチョコレート楽しみにしてたよね。
ごめんね。
次は強がらないで、意地張らないで、たまには素直に・・
母さんにでも奈々子姉にでも手伝ってもらって、チョコレート作るよ。
だから。

「越前、ありがとな、バレンタイン。すっげぇあったかい」

やさしい声が聞こえて、
俺も精一杯やさしい声で、うん、と呟いた。










季節外れバレンタイン!
今回は2月にUPできなかったので今頃UP(爆)
でも、キスもしてねぇオイオイオイオイ・・
実は過去に書いたネタを書き直してみたものだったりします。












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