木枯らしが吹く。 日が暮れる。 手の先も、髪の毛の端っこまでカチカチで。 コートのポケットの中に手を入れた。 「・・・くくっ」 「なに」 「いや?」 俺の顔を見るなりクスクス笑う桃先輩を見上げる。 桃先輩はなんでもねぇって言いながら、また笑う。 なんなの、もう・・・ 自転車は風をきるから寒いって桃先輩に言われて、仕方なく歩きで帰る。 俺は、桃先輩が壁になってくれるから、風なんか全然平気だけど、 桃先輩は、顔が固まるから嫌だって言う。 だからしょうがなく歩いて帰ってるのに。 「理由もなく笑われんの不愉快なんだけど」 とうとう我慢できなくなって、再び桃先輩を見上げた。 「理由はあるぜ」 「なに」 「まだ秘密〜」 なんだよ、それ。 寒いし、桃先輩は意味わかんないし、 ・・・早く帰りたい。 思わず早くなる足どり、すり合わせる手と手。 顔がじんじんする。 そしてまた桃先輩はクスクスと笑う。 「なにがそんなにおかしいの」 俺の声で機嫌を察知したらしい桃先輩は、 教えてやるよ、とカバンの中にゴソゴソと手を入れた。 ・・・鏡? それを渡されて、見てみな、と促される。 ・・・・・・っ// 映し出された俺の顔。 鼻とほっぺたが真っ赤だ。 「なにコレっ」 「なぁ〜可愛いだろ」 「可愛くない!!」 桃先輩の悪趣味! そんな目つきで睨んでやる。 「しょうがないじゃん。寒いんだから!」 「そんじゃ、コレやろうか?」 ゴソゴソとポケットから出したものを俺の手の上に乗せた。 これ、ホッカイロ・・・。 「持ってんなら貸してよ!」 ムキになりながらも、手の中の小さな袋で暖をとる。 指先がほんのり暖められて、小さな体の震えが少しおさまった。 でもしばらくすると、そのあたたかさに慣れ、更に暖かい温度が欲しくなる。 「これじゃ足りない」 「これしかないっての」 となりに居る桃先輩。 こんなに風が冷たい日でも、桃先輩はやわらかく笑ってて、 笑い声と共に出る息は、宙に白く舞って消えた。 ・・・くっついたら、あったかいかな。 そんなことが、ふと頭に浮かんだ。 「桃先輩、ちょっと・・」 「ん、なんだ」 人もいないし、いいかと思って、 ぐいっと腕を引き寄せ、ぴたっとくっついてみた。 「お、おい越前」 やっぱり。 ・・・あったかい。 「桃先輩、ホッカイロになって」 こんな近くに、こんないいホッカイロがあるなんて。 俺は調子に乗って、両腕でぎゅうっと桃先輩にくっついて歩いた。 「こら、越前。重いだろー」 「やだ」 わざと体重を乗せて歩くと、コツンと頭を小突かれた。 それに対抗するようにして、ぎゅうっと体を寄せる。 そうすると桃先輩も体を押し返してきて、桃先輩との距離がなくなった。 「そんなに寒いか?」 「さっきからそう言ってんじゃん」 桃先輩はそうだな、と笑って、絡ませてある俺の手をぎゅっと握った。 手から直接伝わってくる桃先輩の体温は、ホッカイロよりもあったたかった。 俺の手をすっぽり包んでしまう桃先輩の手は、いつも暖かい。 「桃先輩の手・・好き」 「手だけ?」 「そ。手だけ」 わざと笑顔になって言うと、桃先輩は苦笑いをして、 即答かよ、と少し肩を落とす。 クスクス。 本当、桃先輩って正直で可愛いんだから。 う・そ、って囁きながら、伸び上がって桃先輩の頬にキスをする。 目をぱちくりする桃先輩に 「隙ありすぎっすよ」 と告げると、ぱぁっと笑顔になった桃先輩に抱きしめられた。 「ちょ、ちょっとココ道端っ//!」 「平気、平気」 何を根拠に平気なのかわからないけど、 桃先輩はきっと、俺のことしか頭にないんだろうなぁって思ったら、 焦っていた俺のはずなのに、なんだか嬉しくなって、 桃先輩を抱きしめ返した。 「おっ。嫌なんじゃなかったのか〜?」 「嫌とは言ってない・・//」 恥ずかしくて、その後桃先輩の胸に顔を埋めると、 なだめるように、俺の頭に、大好きな桃先輩の手が下りてきて、 やさしくなでてくれる。 それだけでも、俺の胸は桃先輩でいっぱいになってしまうのに、 「家着いたら、もっとあっためてやる」 耳元でそんなことを言うから、余計俺の顔は火照ってしまう。 からかうようにわざと低い声で囁くから、俺は、バカ、と言って 桃先輩の胸を一発なぐる。 俺は、大して痛くもないのに、痛ぇ、と笑う桃先輩からやっと離れて 桃先輩の数歩先を行き、後ろを向いて歩いた。 「桃先輩んちまで競争!」 「走るのかよ」 「だって、あっためてくれるんでしょ」 「おう!熱いくらいあっためてやる!」 俺は、数歩のリードをつけて、 木枯らしの風を切り、全速力で走り出した。 だって、冷たい冷たい風の後には、 あったかいあったかいごほうびが待っているから。 水城夏流さまリクの「寒がりのリョーマのカイロ代わりになる桃先輩」でした! 本当、遅くなってすみませんでした。 こんな感じで課題クリアしていますでしょうか? 桃先輩んちまでの競争はどっちが勝ったんでしょうねぇv |