真夏の光線、ゆるやかな雲。
絶好の夏日和というこの日に、テニス部恒例の体力づくりを目的とした水泳大会が行われた。
学年別にわけた後、得意不得意、経験有り無しに関係なく、くじ引きで公平に相手を決める。

「おチビ早く着替えなよ〜」

テキパキと部員が更衣室で着替えを始めている中、リョーマだけが更衣室の隅で小さくなっていた。
部員は次々とウォーミングアップをしに、プールサイドへと走っていく。
そんな中、隠れようと隅っこに行ってしまおうとするリョーマを、菊丸が引っ張り出す。

「こーらおチビ。いくら泳ぐのが苦手だからってサボりはいけないぞー!」
「別に泳ぐの苦手じゃないっすよ」
「あら、そうなの??」

あっさり納得して、菊丸はリョーマに尋ねた。

「そいや、荷物は?水着とか」
「・・・持って来てないっす」
「ま、まさか今日の水泳大会忘れてたの!?」
「・・・すんません」
「もぉ!昨日あれだけ大石が言ったじゃ〜ん!!」

ぷんぷん頬を膨らまして菊丸が怒る。
体力づくりが目的となっているこの水泳大会、もちろん全員参加が規則となっていたのに加え、
体調不良者も、水着忘れたという者も他にはいなく、
運悪く見学者となったのは、リョーマだけだった。

別に、水泳大会を忘れてたわけじゃない。
水着も用意してた。
大石先輩にあれだけ念を押されて、水泳大会の話をされたのに、忘れるわけない。
泳ぎが苦手ってわけでもないし、暑い毎日の練習と違って、涼しく過ごせると思ったこの水泳大会。
実は結構楽しみにしてたのに・・・

全部、桃先輩せいだ・E・
昨日の夜、桃先輩は俺の体にこれでもかって程キスマークを残した。
こんなバレバレの体で水着なんて着れるわけない。
・・・目立つとこばっかりに付けやがって・・・
それに気づいたのは、朝パジャマを脱いだとき。
昨日夜寝る前に、桃先輩が不意に「ごめんな」って謝ったわけがやっとわかった。

あとで気が済むまで文句言ってやる。
そう思いながら、リョーマは他の部員が待つプールサイドへ歩き出した。

プールサイドに出ると、ざわめきながら部員たちが準備体操をする中、言い争う聞きなれた声が聞こえてきた。
そのあまりにもくだらない言い争いに、リョーマははぁ、とため息をついた。

「大石先輩!俺の方がガタイいいっすよね!!」
「馬鹿野郎!!てめぇくだらねーこと聞いてんじゃねぇよ!」
「るせぇ!おまえこそ負けるのが怖くて答え聞きたくねぇだけだろ!」
「あァ!?なんつった!もう一回言って見ろ!!」
「くだらないことしてないでウォーミングアップしろ!!」

目の前で繰り広げられる紛争に、ついに大石先輩が怒鳴る。
相変わらず、本当にくだらない。

・・・やっぱり桃先輩って馬鹿・・・

リョーマは少し離れた木陰に座りながら、確信した。
大石先輩は部長と大会のスケジュールについて話し合ってるし、
他の人たちはペアを組んで、準備体操をしている。
それなのに桃先輩は、海堂先輩と準備体操の時間中ずっと言い争っていた。

そのうちその時間も過ぎて、くじ引きの時間になった。
学年別にくじを引き相手を決める。
1年生が終わって2年生の番になる。

あーあ、本当だったら俺もあそこに並んでたのに・・・。
平然とくじを引く桃先輩を恨めしそうな目で睨んでやった。
次第に、また海堂先輩とのケンカが始まった。
腐れ縁よろしく、桃先輩と対戦する相手は海堂先輩みたい。
なんでまたおまえと!!、海堂先輩にふっかける桃先輩の隣で
不二先輩と乾先輩が不敵な笑みを浮かべているあたり、この人たちが工作したとも思えなくもない。


俺はあくびをしながら、バシャバシャ気持ちよさそうに泳ぐ部員を見る。
涼しそうな景色がこんなに近くにあるのに、さんさんと照らす日差しは更に強さを増した。

暑すぎ・・・。

パタパタと仰ぎながら、飛び込み台のほうを見やる。
桃先輩と海堂先輩がスタンバイしているところだった。
思わずそこに視線を移していると、笛の音で競技がスタートした。

お互いクロールで、水色のプールをどんどん泳いでいく。
最初は海堂先輩が優勢だった。
だけど、スタートで少し出遅れた桃先輩が、ついに海堂先輩に追いついた。
追い抜くか追い抜かれるかの瀬戸際まで来て、俺は身を乗り出した。
あれ・・・
なんだか桃先輩の動きが鈍くなった。
そう錯覚した瞬間、桃先輩の泳ぎが止まり、

「・・っ・・・てぇぇえええ!!!」

バシャバシャと水の中で暴れながら、プールの真ん中で立ち止まると、
桃先輩は必死プールサイドに向かう。
海堂先輩は丁度その頃、25メートルを泳ぎきり、
隣に居ると思っていた桃先輩の姿を探していた。
暴れている桃先輩の姿をプールの真ん中で見つけると、
「なにやってるんだアイツは・・」って顔で首を傾げてた。

勢いよくプールから飛び出した桃先輩は、プールサイドに座って、足をなでていた。
・・・なにやってんの、あの人。
その大声を聞いて、大石先輩がやってきた。

「どうした桃!」
「あ、足つった・・っす」
「・・・・・・桃、あの後準備運動はしたのか?」
「してません・・・」

案の定、そのあと大石先輩の怒鳴り声がプール中に響き渡った。
自業自得だね。
ひとしきり怒った後、大石先輩は人の波の中に俺を見つけ、申し訳無さそうに言った。

「越前、悪いけど桃を保健室まで連れてってくれるか。軽いケガなんだけど、念のため早めに見てもらわないと」

びしょびしょに濡れた水着姿では、校舎を歩くことはできないから、
大石先輩は、俺に桃先輩の介抱を頼んできた。
足つったなんて普通大したことないけど、まぁ、大石先輩の性格上しょうがないか。
文句言う機会もできたし、と、俺は役目を引き受けた。
それに昨日のことで怒ってると言っても、ケガした桃先輩がちょっと心配だった。




足を引きずりながら、桃先輩はタオルをかぶって俺と一緒に保健室へ向かう。

「バーカ」
「うっ・・・馬鹿はねぇだろ」
「バカだよ馬鹿!馬鹿してて準備運動しない桃先輩が悪い」
「そ、そりゃぁそうだけどよ」

保健室に入り、乱雑に保健室の椅子に桃先輩を座らせる。
大人しくなった桃先輩に救急箱を突き出す。

「自業自得。はい、自分でやりなよ」
「な、なんだよ。越前が手当てしてくれんじゃないの」
「なんで?俺、大石先輩に『保健室に連れてって』って言われただけだし」
「おいおい、マジかよ・・・」

フン。
これくらい意地悪言ったって、バチ当たらないでしょ。
だって桃先輩が悪いんだ。

「後できっと10周とか走らされんだろうなぁ・・・」
「10周でも20周でも走れば!?・・・俺だって泳ぎたかったのに・・・」
「・・・昨日のことは悪かったって」
「嘘。全然反省してないくせに!」

怒る俺に、桃先輩はちょっとふてくされたような顔になってぽそりとつぶやいた。

「・・・おまえの体他のヤツに見せたくなかったんだよ」
「くだらない。俺の体なんて桃先輩以外誰も見てないよ」
「それはおまえ!考えが甘いぞ!!」

警戒心がないだとか、俺の前以外で寝るなとか。
こうゆうところ、俺に負けないくらい桃先輩は独占欲が強い。
桃先輩のそうゆうところ、キライじゃないけどね。

「とりあえず、俺から水泳大会を奪った罪は重いっすよ」
「ごめん!!マジ悪かった・・!」
「だいたい前日にキスマークつけたりする?かなり迷惑。俺、楽しみにしてたのに!」
「越前、ほんとゴメンな・・・」

強めの口調で、いかに俺が怒ってるかを伝えると、桃先輩は本当に申し訳無さそうに謝ってきた。
これで少しは懲りたかな。
でも、いつまでもこんな顔にさせておくのもかわいそうだから。

「今日、帰ったら今日泳げなかった分、運動付き合ってよ」
「なんでもお供いたします・・」
「もし桃先輩がテニスするほどの体力ないんだったら・・・」

ベットの中ででもいいよ。
体勢を低くして、桃先輩の耳元で挑発すると、
そっちのが激しいだろ?とクスクス笑われた。

「ちょ、ちょっと」
「なんだよ。おまえが誘ってきたんだろ」

ぐいっと腰を引き寄せられて、桃先輩の膝の上に乗る形になる。
まぁね、と笑いながら体を桃先輩に預ける。
あーぁ・・・これって惚れた弱みなのかなぁ。
そんなことを思いながら、桃先輩と唇が触れそうになった瞬間。

ガラッ!

いきなり、保健室のドアが開いた。
やばっ!先生!?・・・と思ったそこに立っていたのは、
眉間にしわのよった部長と、苦笑いを浮かべた大石先輩だった。

休憩時間に入り、暇になった大石は、手塚に桃城のケガについてを話すと、
ご丁寧に制服に着替え、はるばるプールから保健室まで、やってきたのだった。

「元気そうだな、桃城・・・」
「ぶ、ぶ、部長」
「準備運動をしなかった罰を与えに来たんだが、まだ懲りてないようだな」

仁王立ちで上から見下ろされ、桃先輩はカチンコチンに固まった。
つい今までいい雰囲気だったのに、部長が入ってきた途端、まったく逆の空気に変わってしまった。
ケモノの顔をした桃先輩が急に、怯えた子犬みたいな顔になったのが
なんだかおかしくて。

「何を笑ってる。越前、おまえも見学者のわりには、元気そうだな」
「え、あ、あの・・・これは」
「二人とも明日グラウンド20周!」

・・・うわ。最悪。何で俺まで・・・

「プラス桃城、さっき大きな声でよく聞こえたんだが、越前が今日見学になった原因はおまえらしいな」
「え・・・ま、まさか、部長、話聞こえて・・・」
「桃城プラス20周追加!!!」
「に、にじゅう!?」
「それとも、もっと走るか?」

桃先輩・・・ご愁傷様。

「桃も越前も、もう水泳大会も終わりに近いから、プールサイドに集合してくれ」
「遅かったらまた追加するからな」

部長にひと睨みきかされると、二人は保健室を出て行った。
出て行く直前に、大石先輩が小声で、頑張れよ、と小さなエールを送った。

ちぇ。ったくついてないの・・・
警告無視して、いちゃつくのもいいけれど、遅くなればまた走らされちゃうよね。

「ほら、桃先輩行くよ」
「お、おう!」

俺たちも保健室を小走りで出ていく。

「明日朝一で40かぁ。きっつー・・・」
「じゃあ、そのために今日は帰ったらすぐ寝て、体力温存しなきゃね?」
「え・・。だっておまえさっき!!」
「あぁ、あれ?取り消し」
「だぁぁああ・・・!!!」

隣で髪をかきながら、落ち込む桃先輩を横に、
俺は隣で不敵な笑みを浮かべた。
くっそぉ・・・と悔しがる桃先輩と一緒に、
俺たちは、プールサイドへと速度を上げて、走っていった。








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 □8900hit!みたかさまリクの「水泳大会」でした〜
  ひぃ。またしても遅遅MAXでごめんなさい。
  夏にいただいたリクなのにもう秋。
  甘くはないんですけど、夏の暑さを懐かしんでいただけると幸いです!(無理やりっぽい・・)

実はおまけつきです。








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