『うるさい!近寄るな!』

リョーマが桃城にそう言ってから今日が3日目。
断固として桃城を近寄らせないリョーマは、朝夕の送り迎えから、
部活の練習に至るまで、リョーマは一切桃城を近づけさせなかった。

「桃・・・もしかして、浮気?」
「ご、誤解っすよ」

少し距離を置いているだけで、誰もがケンカしたな、と悟れるのは、
二人がいつも常に四六時中ベッタリしている証拠。
1日目で、既にそれを見抜いていた不二は、
3日目の今日になってやっと、桃城に話を振った。

「俺はただ、告られたのを断ってただけっすよ」
「それだけで越前が怒る?」
「・・・・・・・・・」

黙り込む桃城に、不二は容赦なく突っ込みを入れる。

「呼び出された時から、断るって最初から決めてたんですけど・・・」
「OKしたの!?」
「そうじゃなくて・・・されちゃったんすよね・・・」
「なにを」
「キス・・・」

告白されるのは桃城にとって、もちろんこれが初めてと言うわけではないのだが、
キスをされたことで、初めて告白されたときのように、桃城は戸惑ってしまっていた。
その時に、桃城を呼びにきたリョーマに、偶然出会ってしまったのだ。
告白されていることは、極力リョーマに言わないつもりの桃城だったが、
こればかりは不可抗力。

「桃、隙ありすぎ・・・」
「・・・すんません」
「そんなの越前に誤解ときに行けばいいことでしょ」
「越前のやつ、その時間すら俺にくれないんすよー」
「無理矢理にでも捕まえればいいじゃない」
「そんなことしたら、余計嫌われるっす」
「・・・・・・桃」

不二の目が、じろりと桃城を睨んだ。
浮気と誤解されながらも、さっきからなんとなく余裕を残した桃城に不二が苛立ちを見せ始めていた。
不二が知る桃城なら、こんな状況に陥ったら、もっとすがり付きにくると予想していたからだ。

「桃、今の状況って、もっと慌てふためくべきじゃない?」
「不二先輩はおれに慌てふためいてほしいンすか・・・?」
「当然。それをからかうためにこうやって話題振ったんだから♪」
「・・・不二先輩・・・ι」

桃城の苦笑いに比べて、不二の笑みはとても楽しそうなものだった、が

「でも、生憎っすね。この問題明日には解決すると思うんで、ご心配なく」
「なにそれ。秘策でも考えた?」
「それはお楽しみっすよv」

桃城が返したその笑顔は不二にも負けないほど、楽しそうなものだった。




「桃先輩の馬鹿。阿呆。浮気者・・・」

夜になって、リョーマは枕をぼふぼふ殴っていた。
自分がいるにもかかわらず、女にキスさせるなんて考えただけで、
リョーマは不安でしかたんかった。
今日で丸3日桃城とろくに会話もしないで過ごしてきた。
逃げてばかりの自分にも苛立っていた。
桃城が好きでも、嫌いでも、結局は桃城のことを考えて、こうやって悩んでるんだから、
リョーマにとってそれはとっても悔しかった。

カツ。


ん・・・?
窓を打つ小さな音。これは、小さな小石の音。
リョーマが枕を放りだして、カーテンを開ける。
そこには、手招きをしている桃城の姿。
その姿を見た途端、リョーマは勢いよくカーテンを閉めた。

なんだよ、今頃のこのこ来たって許してやんない。
浮気者。桃先輩なんかキライだ。

窓を背にして、リョーマが床に座り込む。
そして、また桃城のことを考えながら、時を過ごす。
桃城はどんなつもりでここに来たんだろう。
なにを言いに来たんだろう。
少し足が冷たくなってきた。
お風呂上りで、指先まで冷たい。
そういえば今日は11月上旬並の寒さなんだっけ。
・・・桃先輩、もう帰ったかな。

気づかれないように、カーテンをそっと開けてみる。
窓から伝わってくる冷気の先には、いないと思っていたはずの桃城の姿がまだあった。
その姿を見た途端に、リョーマは玄関に向かって走り出した。
玄関のドアを勢いよく開けたと途端に目に入ってきたもの。
桃城が鼻先を少し赤くして、目を丸くしてこっちを見ていた。

「馬鹿!!風邪引く!!!」

リョーマは桃城の手をとって、力任せに引っ張った。
転ばないようにと、桃城はバランスを取りながら、抵抗せずにリョーマの後をついていく。
自室に着くと、リョーマは桃城を座らせ、上から怒鳴りつけた。

「なに考えてンの!アンタみたいな馬鹿でも風邪引くでしょ!!」
「越前がすぐ入れてくれねぇからだぞ?」
「だいたいなんなの!うちまで来て、いいわけでもする気?!」
「そうだ」

堂々そう答える桃城に、リョーマがため息をつく。
馬鹿みたい。こんな浮気者心配するなんて

「言い終わったら帰ってよね」
「なに言ってんだよ。俺はおまえと仲直りしに来たんだぞ」
「俺はする気ない!」

ぬけぬけとそう言い放つ桃城に、リョーマはさらに苛立っていた。
しかし、本人も気づかない心の奥底で、やっと桃城と話せたことで、ほっとしていた。
3日ぶりに目を合わせたリョーマは、桃城にちょっとなつかしさを感じていた。
そして、それが知らぬ間に、目頭を熱くさせていた。

「俺に隙があったの悪かったと思ってる。ごめん・・・」

もし、桃城が反撃してくるのなら、怒り任せにこんな出かけた涙なんか吹き飛ばせるのに。
頭を下げて謝ってくる桃城に、リョーマは怒鳴ることができなかった。
ただ、やっと喉から搾り出して出てきた言葉は、お得意の小生意気。

「ももせんぱい、の・・うわ、きもの・・大・・キライ・・・」
「おまえが嫌いでも、俺は越前のこと大好きだぞ」
「もう、俺以外とキスしないで」
「おう。絶対しない」

強がって、強がって、やっと出した一言も、冷たいリョーマの一言も、
桃城はすべてを包んでしまう。
3日ぶりに聞いた桃城のやさしい声に、リョーマはぺったり床に座り込んで泣いてしまった。
それを癒すように、上から桃城のあたたかいぬくもりが降ってくる。
体が冷えてしまったこともあって、桃城の体温がとても心地よかった。

「もう一生、桃先輩と口聞けないと思った・・・」
「そんなわけねぇだろ。お互いこんなに想ってるのによv」
「馬鹿。そんなこと聞いてない!」
「大好きだぞ〜〜越前vv」
「うるさいっ///!!!」

いつのまにかさっきまでの張り詰めた空気はどこかへ消え去り、
今や二人の空気は、誰よりも甘い空気へと変わっていた。
次第に硬い表情もほぐれて、リョーマも自然に笑みが出るようになっていた。
桃城が、仲直り記念vとリョーマの唇にキスすると、リョーマもお返しに、
桃城の唇に甘いキスをした。

「どうせ仲直りするなら、最後までしようぜv」

にやりと笑う桃城に、抵抗する時間も与えられず、リョーマはベットにねじ伏せられてしまう。

「ちょ、、ももセンパ・・・んっ・・」

そして、二人の熱い夜は続いた・・・






「おはよーございますー!!」
「おはよ、桃。・・・あ。」

不二の目線の行く先は桃城に向いていたが、その大きな背中の後ろから、
リョーマがひょっこり顔を出した。

「はよっす//」
「えぇ!?桃、ほんとに仲直りしたの!?」
「当然っすよ」
「だって、話しても取り合ってくれないって昨日言ってたじゃない!」
「やり方次第ってことっすよvなぁ、越前v」
「・・・うわ。早速始まった、バカップル」
「よっし!今日も張り切って行くぞ〜!越前!」
「うぃっす」
「あ、それから、不二先輩。ヒントは『3日』っすよ。それじゃ!」
「みっか・・・?」
「あー、越前は気にしなくてもいいんだぜ〜v?」

以前よりもバカップルオーラが強くなっていると直感した不二は、
これでいいのか悪いのか、複雑な心境になっていた。
でも、それより不二が気になったのは、あの二人が仲直りした原因。

「3日ってなんだよ・・・」

仲良く走り去っていった二人を見ながら、不二が考えていると、カツカツと背後から靴音が聞こえた。

「乾、なんか知ってる?」
「不二。桃城がレギュラー落ちで失踪してたのは何日だ?」
「・・・・・・。あぁ、そうゆうこと。」

不二が呆れた顔で納得していると、乾はパタンとノートを閉じた。
リョーマが最初に桃城と離れる原因となった、桃城のレギュラー落ち。
リョーマは、桃城が戻ってくるのを我慢できずに、迎えに行ったまでの期間。
3日。それがリョーマの桃城限界期限なのだ。
それが3日であることを桃城はしっかり心得てたのだ。

「ふぅん。それであの余裕ね・・・生意気」

コートではしゃぐバカップルを見つめながら、不二は笑った。







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 □ひぃ!やっとできあがりました。
  8400hit。さくらさまで、『けんかをして結局仲直りした桃リョ』でした。
  ちゃんと、ご要望にお答えできているでしょうか・・・(ぶるぶる)
  こんなんでも、楽しんでいただけたら幸いです。











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