・・・一日が経つのはとてもはやい。 最近ずっとそう感じている。 そして、眠りにつく前に、今日あったことを思い出すのが習慣になっていた。 それを手助けしてくれるのが、これ。 半回転して、枕もとの携帯に手を伸ばす。 電話は苦手だ。 顔が見れないし、機械に邪魔されて声がはっきり聞こえない。 だから桃先輩と連絡をとる時はメールを使う。 メールフォルダは桃先輩の名前でいっぱい。 俺は大したメールは返さないくせに、かえって来るメールは文字で埋め尽くされている。 でもメールもあまり得意じゃない。 話すことだって苦手なのに、文章なんかろくに使いこなせない。 それでも、寝る前にはそのメールを見てから眠りに付く。 いちばん新しいメールを開く。 『たまには素直に甘えてこいよな〜!(笑)そんじゃおやすみ!』 さっきずっとしていたメールの返事。 弟を幼稚園まで送ってあげなきゃいけなくなったから、 明日は迎え行けねぇんだ、ごめんな。 最初のメールはそんな内容だった。 寂しいか?って聞かれて、そっけなく返事をしたら、あんなメールが送られてきた。 素直になれるもんなら、はじめからしてるっつーの。 なれないから、悩んでるんじゃん・・・ 俺は桃先輩みたく綺麗に笑えない。 桃先輩みたいに友達も多いわけじゃない。 でも桃先輩を思う気持ちは負けるつもりはない。 桃先輩にだって負けない。自信はある。 それなのに、いざ桃先輩の前に出ると、意地張ってばっかり。 「好き」の一言も言えない。 夜になると寂しくなる。 さっきまで一緒にいた時間は、うるさいと思っていたのに、今はこの静寂が怖いほど寂しい。 俺は思わず、メール画面を見ながら新規作成のボタンを押す。 あて先は 桃城 武。 一文字ひともじ、ゆっくり打つ。 い、ま、す、ぐ、あ、い、た・・・そこまで打ちかけて、一文字消して打ち直す。 い、ま、す、ぐ、あ、い、に、こ、い。 しばらくこの自分の意思で打ちだされた言葉を見て、ため息をつく。 あ。ため息つくと幸せ逃げるんだっけ。 「・・・明日は朝一で会えないのか」 ぼーっとそんなことを考えながら、作ったメールを消した。 ベットに転がりながら、窓を見ると、 いつのまにか振っていた雨の音がうるさかった。 迎えがないうえに、雨まで降ってるなんて・・・ さらに憂鬱さが増して今日3度目のため息。 明日、桃先輩に逃げた幸せの分埋めてもらわなきゃな。 『たまには素直に甘えてこいよな〜!』 ・・・・・・ ・・・やってやろうじゃん。 どうやって桃先輩を驚かせてやろうか。 だけど今は眠さで、あんまりいいアイディアが浮かばない。 今日はゆっくり寝て、明日授業中にでもいろいろ考えるか。 どうやら明日は居眠りで怒られることはなさそうだ。 覚悟してろよ。 手にした携帯に向かってそうつぶやいて、俺は静かに目を閉じた。 ---------------------------------------------- □桃城の兄弟の年と名前がこの上なく知りたい・・・。 やっぱり最後はリョ桃っぽい今日この頃。 |