顔を上げると、遥か上の方から俺を見下ろす、不二先輩がいた。

「またこぼして!!前もあれだけ注意したのに!!!」
「・・ご、ごめんなさい」

頭を低くして体を縮める。
だって、このお皿だって、この高さだって、食べるの難しいんだ。
いつも怒られるから、俺だってこぼさないように食べてるつもりなんだけど、
食べたら夢中になっちゃうんだっ。

「不二、あんまり怒らないであげてよ。俺が掃除するからさ」
「ダメ。掃除は僕の仕事だし。タカさんはやらなくていいの!桃、うちでちゃんとしつけしてるの?」
「してるっすよ。うちじゃいい子だもんな」
「・・・うん」

きっと不二先輩は俺のことキライなんだ。
だからあんなに怒るんだ・・・。
そう思ったら、なんだか悲しくなってきた。


「そうだ。僕、夕飯のしたくしなきゃ。じゃ、ゆっくりしていってね」
「ごちそう様っしたー!」

不二先輩がいなくなって、3人になった。
なんだかいきなり静かになって、桃先輩はお茶を飲んでいた。
でも、俺の様子にすぐに気づいて、俺の頭に手を乗せた。

「・・・ん、どうした。元気ないな」
「別に・・・」

強がっていても、桃先輩にはお見通しみたいだけど。

「不二に言われたこと気にしてる?」

・・・河村先輩にもお見通し、みたい。
俺ってそんなに顔に出てるかな・・・。

「・・・俺、不二先輩に嫌われてる」
「はぁ?考えすぎだって。あの態度見ててどこが嫌ってんだよ?」
「不二先輩、すぐ怒るもん・・・」
「あれはね、不二なりの愛情表現なんだよ」
「アイジョウ表現・・・?」
「嫌いだったら、ああは言わないと俺は思うな」

でも、毎回叱られてたんじゃ、嫌われてるって思いたくもなる。
そしてまた下を向く。

「・・・しょうがない。特別に不二の秘密、教えてあげるよ」

そう言って河村先輩は、俺の隣に座ってにっこり微笑んだ。
なんで俺に不二先輩の秘密?と不思議に思いながらも、
河村先輩は、耳元でコソっとそれを教えてくれた。

「ずっりぃ〜!タカさん、俺にも教えてくださいよ〜!」
「だめだめ」
「ちぇ」

「河村先輩、本当・・なんすか?」
「もちろん」



『リョーマ君が食べる魚は、いつも不二が用意してくれてるんだよ』



だから言っただろ、と俺の頭をなでた。

「もうちょっと詳しく言うとね・・・」

そう言って、またさらにその続きを教えてくれた。

『リョーマ君が食べてる魚はね、近くじゃ取れない魚なんだ。
それでも不二は「リョーマ君が好きな魚だから」って言って< 遠くまで買いに行くんだよ。
それに、この前なんか、次はいつ桃とリョーマ君来るかな♪って
会えるのをすごく楽しみにしてたんだよ』

それを聞いて、
・・・・・・。
・・・なんだか、言葉が出なかった。
けど、さっきまであった不安はいつのまにけ消えていて、あったかい気持ちになった。

「なんだよ!俺にも教えろよ、不二先輩の秘密!」
「・・・桃先輩、うるさい」
「リョ〜マ〜・・・っ」
「う・る・さ・い!!」
「ははっ!今日、桃は散々だねぇ」
「笑い事じゃないっすよぉ、タカさん・・・」
「まだまだだね、桃先輩」
「言ったな、コイツ〜〜〜!!!」
「ははっ!!」

そっか・・・よかった・・・。
嫌われてるわけじゃないんだ。
あのお魚、不二先輩が選んでくれていたなんて。
絶対に河村先輩だって思ってたのに。

今度はもっと、お行儀よく食べようかな・・・。
なんて、安心したら、なんだかおなかが空いてきた。

「桃先輩、おなか減った」
「へいへい。じゃあそろそろ帰りますか」
「一緒に食べていけばいいのに」
「いや、ふたりの時間を邪魔しちゃ悪いんで」
「そうか・・。悪いな」
「いえいえ。そんじゃ、ごちそうサマでした!」
「ゴチソウサマっす」
「あ、ちょっと待ってて」

河村先輩は、俺たちを留めて、カウンターの奥に消えた不二先輩に
俺たちが帰ることを告げた。
少しして、不二先輩が奥から出てきた。

「なんだ、もう帰っちゃうの。もっとからかってあげようと思ったのに」
「か、勘弁してくださいよ・・・」
「フフ・・・」

そして、お礼を言って店を出ようとした時

「リョーマくん」

不二先輩に呼び止められた。
・・・秘密も聞いちゃったし、ごちそうさまくらい言おう。
それくらいなら、秘密を聞いちゃったってバレないもんね。
決心して口を開いた瞬間・・・

「次来たときは、たっぷり遊んであげるからね・・・」

不二先輩の両手が伸びてきて、俺のほっぺたを引っ張った。い、痛い・・・。
そのときの不二先輩の嬉しそうな笑顔といったら。

・・・やっぱり、この人キライかもしれない






「邪魔しちゃ悪いとは言ったけどよ、たぶん、あそこで一緒にすき焼き食わせてくれ、なんて言ったら、
 後で不二先輩になにされるかわかんねぇよなぁ」

帰り道でわかったことだけど、
桃先輩も不二先輩には弱いみたい。

「でも、おもしろかったなぁ」
「そうっすね」
「また遊び行こうな!」
「うっ・・・」

・・・ちょっと複雑な心境だけど、
また、たまに遊びに行くのは悪くないかなぁ、なんて思った。

「うっし!今夜はうちもすき焼きにするか!」
「やったー!」

お魚はものすごくおいしかった。
だけど、食べ終わってしまった魚より、
今は、これから腹に入るであろう、すき焼きのことで頭がいっぱいだったりするのだ。
























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